32 勝負しようよ①
さて、俺も風呂に入ろうかと思ったのだが、俺の着替えはユイ達の荷物の置いてある部屋にある。
後で、着替えを移すとして、今入って何も言われないだろうか?
自分の部屋だったはずなのに、なんで入るのにこんな緊張しなければいけないんだ。
なんだか考えるだけバカバカしくなった。
堂々としていれば何も言われまい。
「あ、コージ」
ユイに声をかけられて、固まってしまった。ハムスター並の速度で逃げ出したくなった。
「な…なにかなー」
努めて普通の声で答える。
「何でそんなよそよそしいし」
だって、ねぇ…。貴女達の着替えとか下着とかあるわけじゃないですか。
そこに男の俺が入るわけで。
「まぁいいや。あのさ、スイッチあるじゃん」
「え? ん、あぁ。ゲームか。それがどうした?」
「これってやってもいい?」
「あ、あぁいいぞ。好きに使って構わないぞ。全然やってなかったし」
「光司は友達いないのになんでコントローラー二個もあんの?」
星羅がニタニタしながら刺してくる。
「と…友達くらいいるわ!」
「ほんとにぃ?」
めっちゃ煽ってくるな。確かにここに友達が来たことなんかないよ。
二個あるのは、限定版のコントローラー壊したくないから買っただけだしな。うん。
「これはオレンジ色ですね」
「ふふ。水色もありますね」
「まぁ、緑には違いないか…」
「何でピンクがないし!」
「でも紫はありますね。あの人の色ですね」
「コージ!」
うわ、めんどくせぇ。そんな考えて買ってないよ。
「わ、分かったよ。あと二個買えばいいんだな」
「違うし!」
「えぇ…なんだよ…」
「つまりですね、光司さんは予めピンク色を用意してなかったのが悪いのです」
どうして寧々にまで責められなければいけないんだ。
まぁ、こんな雰囲気だから普通に着替えを持ってこれたが、静だけずっと俺を目で追うのはやめてほしい。
いっそのこと何か行ってくれた方が気が楽なんだが。
逃げるように脱衣所へ入ると、そこは既に女子の必需品で溢れていた。
なんか肩身狭いな。
そんな中で俺のシェーバーだけ、ど真ん中に置くのはどういう意味があるのだろうか。
*
「むぅ」
「まぁまぁ落ち着いてください。ほら光司さんの淹れてくれたアップルティーですよー」
「ん」
ごくごくと喉を鳴らして飲む唯。
「まぁ、私のも厳密には微妙に違うからさー」
「…………」
マグカップを口につけたまま黙ったままの唯。
「そんなことよりも何か理由があってゲームを借りたのでしょう?」
「あ、そだね…そうそう」
スイッチをテレビに繋いで起動させる唯。
「あった」
目当てのゲームがあったことで機嫌が直ったようだ。
「桃鉄ですか……。それで何を? まさか普通に対戦するわけじゃないですよね?」
不思議そうにしながらも何かを察した寧々。
「光司の部屋にはさぁ、ベッドがあるよね」
「あるわね。それがどうしたのよ」
星羅が先を促す。
「つまりさ、別に四つ布団敷く必要なんてないんだよ。光司のベッドで寝ればいいんだから」
「「「!?」」」
三人の反応を見て満足そうにする唯。
「唯、あなた天才だったのね」
「星羅さんだけですよ。気づいていなかったのは」
「え、ホントに?」
寧々の方を見ると、寧々がさっと顔を横に向けてしまった。
静の方へ向き直ると、静も横を向いていた。
「おい」
笑いを含んだ声でツッコむ星羅。
「まぁ、正直そこまで考えてませんでした」
「あたしもです。光司さんも気づいてませんよね」
「多分ねー」
「ですが、唯さん。一つ判断をミスってますよ」
「え、あーしが? 何を?」
「見てください。光司さんのベッド。わたくし達なら二人は寝れますね?」
静の問いに三人が部屋の入り口まで行って確認する。
「確かに」
「少し横幅ありますね」
「あんたよく見てるわね」
「つまり、勝者は二人。敗者は地べたで眠る訳です」
「言い方ぁ」
「あら。星羅さんが既に負けた気でいるんですね。では三人で残り一人の敗者を決めましょうか」
「いやいや。やるから。勝つからわたし。絶対に静だけには負けたくないわ」
「あーしが言うのもなんだけど、もっと仲良くやろーよ」
「そうですよ。別に勝者は一人でもいいんですからね」
寧々の発言に三人が黙ってしまう。
「な、何か言ってくださいよー」
冗談なのか本気なのか判断がつかなかったのだ。
静と星羅がソファを動かし、寧々がゲームを起動させる。
ユイはテーブルに買ってきたお菓子を広げた。
「光司さんに怒られませんかね?」
「その時はみんなで怒られよう」
きっと光司が呆れて何も言わない事を見越しているかのように、唯は言い切ったのだった。




