31 パジャマにもそれぞれ個性が出るらしい
星羅がずっと着替えをもってスタンバイしていたが、中々出てこなかった。
寧々も困った顔をして、俺が剥いたりんごをシャクシャクと食べていた。
寧々はフォークで刺して食べているのに、星羅は手づかみで豪快に口に放り込んでいた。
「いくらなんでも遅すぎる」
「そうだな」
もしかして、どのタイミングで出たらいいかわからずにお風呂で逆上せているんじゃないだろうか?
「なぁ星羅」
「なに?」
「逆上せてる可能性とかないか?」
「そんなマヌケな……。ないこともないわね」
「ちょっと見てきてもらっても」
「そうね。分かったわ」
そう言って立ち上がったところで二人がお風呂から上がってきた。
星羅は開口一番「おそーい」と声を張り上げていた。
それに対して、ユイが両手で「ごめんごめん」と片目を瞑って謝っていた。
静はというと、満足そうな顔をしていた。特に発言は無かった。
それよりも気になったのは二人の格好だ。
ユイはジェラート素材のもこもこのピンク色のパジャマだ。ホントにピンク好きだな。
まぁ、かわいいし、似合ってる。それにあったかそうだ。
問題は静だ。
「静、それ…」
「何か?」
「いや…なんでも…ないです……」
フリース生地の白いうさぎの着ぐるみを着ていた。
しかも真顔だ。
……いや、ほんの少しだけ口角が上がっている。どうやらかなりお気に召しているらしい。
まぁ、静が満足なら別にいいけどさ。もしかして他にもそういうの買ったんだろうか?
そして、そんな静に寧々と星羅は。
「わぁ。かわいいです。うさぎさん似合ってますよ」
「悔しいけど認めるしかないわね。あんたの勝ちよ」
「当然です。しかもこれ被れるんですよ」
「ぐっ…」
胸を押さえて蹲る星羅。一体何がそんなに効いたんだ? 俺にはさっぱり分からん。
「とりあえず入ってきたら?」
「そ、そうね」
「では、入ってきますねー」
二人が入ったのと同時に、当然とばかりにユイと静が俺の横に座る。
「あ、りんご剥いたんだー」
「ふむ。なぜうさぎさんじゃないんですか?」
静はうさぎさんが好きなのか。
「皮はアップルティーにしようかなと思って」
「へー。オシャレじゃん」
「二人が出てきたら淹れるよ」
くいくいと俺の袖を引っ張る静。
「どうした?」
「うさぎは寂しいと死んじゃうんですよ?」
真顔で何言ってんだ?
「うさぎは群れている方がストレスを感じると聞いた気がするんだが?」
「わたくしのパーソナルスペースはぴったりくっついて、体温を感じられるくらいの方がいいと判断しているのです」
そんなこと言うもんだから、ユイが俺の腕が痺れるほど抱きついて来るんだが。
「確かに静の言うことは正しいね」
全く二人とも甘えすぎだ。まぁ、悪い気はしないな。娘ができたらこんな感じなんだろうか?
*
一方その頃の寧々と星羅───
「星羅は良かったんですか?」
「何が?」
仲良く二人で身体を洗いながら寧々が問う。
「あたしと光司さん。星羅はいいんですか?」
「あー、そのこと? わたしはみんなと一緒にいられればそれでいいのよ」
「でも星羅も好きですよね?」
「好きよ。でも寧々の気持ちを遮ってまではできないかな」
「ダメですよ。あたしに遠慮なんてしなくていいんです。だって、星羅も好きだって気持ち知ってますから」
洗う手が止まる星羅。
「それに、遠慮されて勝ち取っても気分よくないですもの」
黙って後ろから抱きしめる星羅。
「ひゃっ!」
「寧々はホントにいい子ね。分かったわ。そう言うなら、わたしも遠慮しないわよ」
寧々の頬に自分の頬をくっつける星羅。
「星羅は甘えん坊さんですね」
「そうよぉ。大好きな妹が幸せになることがわたしの願いだもの」
「いつから姉になったんですか。あたしがお姉ちゃんですよ」
「そこだけは譲れないわ」
「なんでですかー」
泡まみれで戯れる二人。
「ふふ……」
「あはは……」
どちらともなく笑い出してしまう二人。
「寧々、わたしがやると決めたらかなりグイグイ行くわよ。それも大胆にね」
「ええ。それでこそ、あたしも大胆になれます!」
「唯も静も相当強いわよ」
「負けません!」
星羅は再びそっと寧々を抱きしめる。
「こんな日がくるとは思わなかったわね」
「ええ」
二人はシャワーで泡を流すと、そっと湯船に仲良く浸かったのだった。
*
そうして待つ事、一時間弱。ユイと静よりは早かったが、結構長かったな。
「人の事言えないし」
「ですね」
「はぅはぅ。違うんです。お風呂があんなにいいものだと思わなくて」
「確かにあれは長く入ってしまうわね」
「そうでしょうそうでしょう」
うんうんと頷きながら、静は満更でもない表情を浮かべていた。
しかし、四人ともパジャマにも個性が出るな。
寧々さんは綿素材の普通のパジャマだ。清楚な感じで落ち着いている。ペールイエローが暖かそうに見える。
対して問題児星羅はバーガンディーのサテン生地のナイトウェアだ。ベビードールの上に羽織を着ているだけだ。
「星羅、冬にそれは寒くないか? いくら暖房が効いているとはいえ」
「選択をミスったわね。お風呂あがりだけど、確かに冷えるかも」
そう言って俺の貸したコートを羽織る星羅。
おい。それで寝たらシワになるだろう? もしかして返す気無い?




