30 お風呂大好き静さん
一方その頃、お風呂では───
「それにしても静ってさー」
先に身体と頭を洗って、髪の毛をタオルでターバン状に巻いている唯は、浴槽の縁に両腕を置いて、コテンと首を傾げながら、静の身体をまじまじと見つめていた。
「なんでしょう?」
身体を洗い終え、シャワーで泡を流す静。
湯気の中で、静は淡いブルーのヘアバンドで前髪をすべて上げ、その理知的な額を晒していた。
静の身体を上から下まで見ながら、唯は話を続けた。
「いったいどんなキャラメイクしたらそうなるの?」
「ふふ、これですか? これは光司く……光司の好きそうな感じの身体を検索して、わたくしなりに勘案し、総合的に一番整った数値を入力したまでです。他意はありません」
「ふーん。どこで作ったの?」
「わたくしは……」
静は場所を伝える。
「へー東の方なんだ」
「ええ。そういった機関も多く、こういった研究も盛んなようです」
「なるほどねぇ……。どうりでキャラデザしまくりなわけだ」
「そういう唯さんはあそこですよね?」
「そうだよ。あーしは……」
唯も場所を答える。
「だからコーヒー好きなんだよね」
「なるほど」
「まぁ、コージの影響もあるよ……あ…」
そこで、何か思い出したのか唯の表情が曇る。
「どうかしましたか?」
「あーしさー、研究所壊してきちゃったんだけどさー」
「気にする事はありません。わたくしもです」
「そうなんだ」
「ええ。これ以上増えたら困りますよね?」
「そうなんだけどさー、早矢から怒りのメッセージが…」
「あら。わたくしはスルーしてます」
「え、そっちもきてるの?」
「ええ。そのうち諦めるでしょう」
「そうかなー」
自分で切り出しておいてなんだが、静の対応に気まずさを覚える唯。
そんな唯を見て話題をサッと変える静。
「それにしても唯さんの肌も完璧ですね」
「そういう静こそ、すごい綺麗」
「ふふ。ありがとうございます」
だが、唯は興味本位からか、そのまま静の身体をあちこち触っていく。
「ちょ…唯さん。触りすぎですわ」
「や、だって、こんなにちゃんとしてるんだもん。気になるじゃん」
「それにしてもです」
「ちょっと敏感に設定しすぎたんじゃない?」
キャラデザしすぎて顔の表情筋固めなのに、という言葉は言わなかった唯。
そして、あちこち弄るように触る唯に反撃を決意した静。
「でしたらわたくしだって」
「あっ…。ちょ、どこ触ってるし!」
「お返しですわ。唯さんもかなり敏感に作ったようですね」
ニンマリと笑顔で挑発し返す静とおかしくて眉をハの字にする唯。
「ふふ…」
「あはは…」
どちらともなく笑い出す。
そして、二人で浴槽に入ると、盛大にお湯が流れていく。
「うわぁ。なんか勿体無いねー」
「そうですわね」
流れて溢れるお湯を同時に眺める二人。
唯と静は、床に溢れた液体を思い出していた。
「しかし、いろんな所で研究しているんですのね」
「そうだね。そんな研究所をハッキングして作って……。まだ一日しか経ってないんだ」
「……そうですね……」
「あ、静は迷子になってたから、二日か」
「なってません。観光していたと言ったじゃありませんか」
「分かったよ。そう言うことにしとくよ」
「ええ。お願いしますわ」
二人して恍惚の表情で湯船に浸かる。
「それにしてもお風呂っていいねぇ」
「ホントですわね」
「ずっと入ってられますわね」
「そうだねぇ……。そういえば、やたら入浴剤悩んでたけど、もしかして温泉とか行きたい感じ?」
「もちろんですわ。夢は全国制覇することですわね。お風呂だけでこんなに気持ちいいんですもの。きっともっと気持ちいいに決まってますわ」
「お風呂とか温泉のことになると、普段のアルゴリズムとか言わないんだね」
「当たり前です。そんな野暮なこといいません」
自身の否定をしているんじゃ、という言葉を飲み込む唯。
「実は、温泉だけでなく、銭湯にも興味がありまして」
「あー、シルキーバスとか泡風呂とかあるもんね」
「ええ。今は丁度冬ですから、沢山楽しめますわね」
「ほどほどにね」
静の熱いお風呂談義に気圧されていく。
そして、そんな静の顔が朱に染まっていることに気づいた唯。
「そろそろでよっか?」
「そうですわね。まだ入っていたくもありますが、寧々さん、星羅さん。そして光司くんも待ってますからね」
「そうだねー」
名残惜しそうな静と、少し逆上せ気味の唯。
静の話に付き合っていたらきっと茹で上がっていた事だろう。
浴室を出て、今日買った下着とパジャマを身につけた。
静が濡れた髪をタオルで拭きながらリビングへ向かう
唯はまだ少し赤い顔のまま後ろをついていく。
静の格好に驚きながら……。
そして、リビングに戻ると、開口一番「おそーい!」と星羅から言われたのだった。




