28 夕飯は鍋パ
「おーい。できたぞー」
「ありがとうございます。作ってもらっちゃって」
寧々を先頭にぞろぞろ出てきた。
寧々が前に手を合わせてお礼を言う。
その仕草は新婚さんみたいで初々しい。
その後ろからユイと星羅がひょこっと出てくる。
「お。出来たんだ。何鍋かなー」
「もちろん。わたしの提案したすき焼きでしょう……でも、この匂いは違いますね?」
星羅は何故か俺の方を見る。
最初に却下しただろう。そもそも牛肉はない。
「ふっ。この匂いは寄せ鍋ですね。合理的な判断を下せるわたくしにぴったりですわね」
だったら最初に提案してくださいよ。
それぞれが席に着いたのを確認して、蓋を取る。
「わぁ」「へぇ」「ほぉう」「すっご」
それぞれいい反応をしてくれる。
「わざわざにんじんを梅の形に…」
「破片は刻んで鶏団子に入れてますよ」
さすがに、『にんじん嫌い』なんてテンプレみたいな返しはなかった。まぁ当然だよな。
小鉢に叩ききゅうりと壺漬けを。箸休め程度の量が小皿に乗っている。
飲み物はお酒を出すわけにはいかないが、ジュースなどあるはずもないから緑茶だ。
ペットボトルのお茶で文句を言われないだろうか。
若干二名言いそうだが、特に気にした様子はない。
考えすぎだったか? だが、案の定問題児二人が別のものを要求した。
「鍋には日本酒では?」
「そうよね。光司あるんでしょ?」
「出せるわけないだろう」
見た目は少女なんだぞ? お酒出せるわけないだろう。
それに飲ませたことによって、どんな反応するか怖くてたまったもんじゃない。
「……まぁ、今日はそういうことにしておきましょう」
「ワインでもいいのよ?」
星羅だけ諦めが悪い。出さないからな?
俺も家にいる時はお酒を飲むのはやめよう。見えるところにあるお酒は全部隠しておかないとな。
そして、食べ始めたのだが……。
なぜか食べ物に好き嫌いが無いはずなのに、一度よそった具材を俺の器に入れていく。
「ユイ……。トロトロに煮えたネギは甘くて美味いぞ?」
「トロトロって……もう……。光司ったらぁ……」
なんでそんな顔を朱らめる必要があるんだ?
そんなに口の中熱いならお茶飲んだ方がいいぞ?
「星羅も。さっと煮た春菊は香りも歯ごたえもいいぞ? 煮すぎたら台無しだからな?」
「それってつまり?」
「火加減が大事ってことだよ」
ズコッとコケるような仕草をする星羅。よく器を持ったままで溢さなかったな。危ないからそういうことはやめような?
「静も。椎茸美味しいですよ? 肉厚で濃厚です」
「ほぉ……。具体的な表現をどうぞ」
「? 具体的って……。押し返すような弾力で、噛むごとに椎茸本来の香りと旨みが口の中に広がって……」
「二十点」
「!?」
何で採点されたんだ?
そんな中寧々は最初にとった豆腐の熱さで四苦八苦していた。
「あついれすぅ……」
涙目でハフハフとしている。ふぅふぅと冷ましてあげたいが、間にユイがいるし、わざわざ行って冷ますのも違うよな。
葛藤していると、ようやく飲み込めたのか、お茶をコクコクと飲んでいた。
その隙にユイと星羅が鶏肉と豚肉と鶏団子をかっさらっていった。
「ちょっとユイ! 豚肉取りすぎよ」
「お肌にいいらしいからね。というか星羅は鶏肉取り過ぎ!」
「いいじゃない別に」
星羅がやり合ってる横で静がこっそり星羅の器から鶏肉と鶏団子を奪っていた。
行儀が悪いからやめなさい。
気がつくと、星羅の器には山盛りの白菜が積み上がっていた。
「おもっ……って何これ! ちょっと誰よこんなことしたのはー」
「星羅さん。もう少し静かに食べることは出来ないんですか?」
「だってこれ……静あんたね?」
「何がです?」
「返しなさいよ」
「人の器に入ったものを要求するなんて」
「その人の器から奪ったのは誰よ!」
二人が言い争ってるその隙に、ユイが残ったお肉を全部かっさらっていく。
そして寧々だが、今度は白菜が熱かったらしい。
ずっとハフハフしていて、なかなか食が進んでない。
そして俺もそんな様子を見ていて、ネギと春菊と椎茸しか食べていないことに気がついたのだった。
ユイがそっと俺に近づきこう言った。
「普通に美味しいよコージ」
「普通に。は、余計だ。ちゃんと美味いだろ?」
「うん」
「コージ、お肉食べてないっしょ? あげるよ」
「あ、あぁ……ありがと」
それは肉から外れた鶏皮だった。
「お前……」
「や、だって、鶏皮だけだとちょっと食感が」
すすすすーと離れていくユイ。
ま、いいか。
こんな賑やかな夕食はいつぶりだろうな。
こんな日がずっと続くといいなと思ったのだった。




