26 プレゼント
再び二台のタクシーで家へと帰る。
そういえば、鍵は閉まっていたが、一体どうやって閉めたんだろうか?
まぁ開きっぱなしよりはいいか。
部屋へと入りドンキで買って来た荷物を置く。
凄い量だ。あっという間に足の踏み場が無くなってしまった。
とりあえず布団などは寝室の方へ置く。
「………」
服とか入れる収納ケースとかハンガーとか足りないな。あとでポチっておこう。
明日か明後日には届くだろう。ちゃんと在庫のあるものを買わないと、取り寄せになるからな。
某ショッピングモールは在庫なくても日付入れられちゃうからな。注意しないとな。
四人から服しまえないってクレームが入りそうだ。
……っと。これでよし。
もう買い忘れたものとかはないだろう。無くても今日一日は持つだろうが。
ユイ達もそれぞれ荷物をごそごそしていた。
買って来たものを確認しているんだろうか?
あ、そうだ。大事なものを忘れていた。布団を買い忘れた事に意識がいっていて、渡し損ねるところだった。
テーブルの上に置いた紙袋に手を伸ばし、中身を取り出す。
それはユイ達が下着を選んでいる時に買ったものだ。
そこまで高いものではないが、四つのペンダントを購入した。
ユイには黄色いシトリンのついた星型のものを。
寧々には黄緑のペリドットのついた雫型のものを。
星羅には真紅のルビーのついた唐草模様型のものを。
静には青いサファイアのついた六角形型のものを。
それぞれの瞳の色に近いものを選んできた。
それをそれぞれに手渡していく。
「コージ…」
「光司さん…」
「光司様っ」
「光司君……」
今だけは突っ込まないでおこう。癖みたいなものだからね。
「あーしが星かー」
ユイが「星」を胸元に当てて鏡の前ではしゃいでる。
「石を包み込んでるようなデザインですね。素敵です」
寧々が「雫」を慈しむように胸に抱いている。
「わたしのも蔦が絡みつくような優雅で複雑な曲線だわ。センスいいわね」
星羅さんが「蔦の絡まる赤」を満足げに眺めている。
そんな中、静だけが、その六角形の意匠をじっと見つめている。
「待ってください。どうして私はこの形なんですか?」
「えー、静っぽいじゃん」
「そうですね。カッコいいと思いますが…」
「いや、どうして私だけかっこいい必要が?」
「結晶構造のように隙がないからじゃない? (いや、隙だらけか……)」
「ほら、チャットの時、一歩引いて干渉を拒絶してるみたいな事してたじゃん」
「っ…。光司には私の心がそのように見えているのですか? 頑なに見えていると言うことでしょうか?」
顔を近づけて無表情だが静かな怒りを湛えて迫ってくる静。
別にそんなつもりで選んだんじゃないんだ。ただ第一印象で選んだだけなんだ。
「はぁ…。まぁ、プレゼントですから、そんないじわるするわけないんでしょうけどね。………強いて言うならば、このシルバーの枠が、私の肌の熱を奪い、代わりに貴方の選んだ『青』を私の胸元に固定してくれる。論理的な解釈を放棄して言わせていただけるなら……今、この瞬間の心拍数の乱れは、どのプログラムにも記述されていない、未知の……けれど、とても心地よいエラーです」
よくそんな長々とうっとりしながら言えるな。さっきまでの静かな怒りはどこへやら…。
「(静っち、そういうところだよ)」
「(ええ。素直に喜べばいいと思うのです)」
「(そうやって論理武装してるところが、六角形の由来だと思うのよね…)」
三人が口元に手を当てヒソヒソと話している。幸にして静の耳には入っていないようだ。
めんどくせぇ…。
「では、これ掛けてくださる?」
「あ、ずるい! あたしもお願い…します……」
「コージ、全員分かけてよ。ね?」
「まぁ、抜け駆けは良くありませんからね。本来ならかける順番も守るべきです。ねぇ静さん?」
「星羅さん何か言いましたか?」
「ちゃんと掛けるから、落ち着けって」
ウッキウキでユイが俺の前に来る。
その後ろに星羅、静、寧々さんと一列に並んでいる。
「落とさないでよね? あーしの星」
落とすもんか。
俺は目を瞑るユイにそっとペンダントを掛けた。
「ん…。だいじに…するね」
ユイの上目遣いはホントにくる。心臓が止まらなかったのが奇跡だ。
「一番は譲りましたが、次はわたしですわね」
ユイ同様に目を瞑るが、口を尖らせる必要なんてないだろう。
「本当はわたしがあなたに鎖を繋ぎたかったんですけどね。まぁ、これも悪くないでしょう」
言った後に口唇がモニョモニョするくらいなら、無理してそんな大人のお姉さんみたいな事言わなくていいのに。
「ではお願いしますわ。正確に。ズレは許しませんよ?」
つけた後にズレるのはどうなんですかね?
しっかり俺を見据える静。背が高いから当たりそうでドキドキする。
「ふふっ……(好きです)」
「え、なんて?」
「なんでもありません。では…」
表情を引き締めて横にずれる。最後は寧々…寧々さんだ。
両サイドに三人が並び、まるでお見合いのようだ。
「光司…さん…」
「寧々さん…」
「ちょ、なんで一番いい雰囲気になってるし」
「そうですよ。私の時はそんな顔しなかった癖に」
二人とも目を瞑っていただろう?
寧々も同様に目を瞑るが、両手を胸の前で握っている。まるで結婚式のようだ。
ここにきて、手が震えてしまい、掛ける時に首に手が当たってしまった。
「あ…」
「あ、すいません」
「いえ、いいんですよ」
この瞬間、さっきまでの春の陽気はなりを潜め、一気に真冬の暴雪へと変わった。




