22 家に帰ろう
こんなに荷物があるのだ。歩いて帰るのは建設的じゃない。
なのでタクシー乗り場まで歩きながら何が食べたいのか聞いていく。
「まぁ作るのはいいけど、何がいいんだ?」
うちの冷蔵庫にあるものなら構わないが、なければ近所のまいばすけっとに行けばいいだろう。
さて、なんて返ってくるだろうか。
四人がほぼ同時に口を開いた。
「わたくしは派手さはないけれども手を抜いてない出しの効いた澄んだスープ…ですかね。具は控えめ、香りが主役」
「論理と効率を愛するわたしとしましては、具だくさんの、お母さんが作るようなお味噌汁ですね」
「コージの手作りおにぎりがいいな。気持ちがそのまま入ってる気がするから……」
「うーん。そうですねぇ…彩り野菜とチキンのトマトクリーム煮込みにガーリックバターを添えた厚切りのバゲットがいいですね………え?」
三人の視線が集まり、寧々が「あ…」と小さく息を飲んだ。
何か調べてる最中に琴線に触れる情報でもあったんですかね?
そんな寧々を驚きの表情のまま見ている三人。
「あ、いや、違いますよ? たまたまです…」
途端に真っ赤な顔になる寧々。
「なるほど…。ではわたくしは何時間もコトコト煮込んだビーフシチュー。ただし、盛り付けは控えめで。或いは皮目を完璧に焼いた魚料理もいいですわね。ソースは最小限。でも技術は隠さない。それができますか?」
「あ…あうあう…。えっと、私だけコンセプトが違いますね。えっと…えっと。そうだ。だし巻き卵なんてどうですか? 静さんの言う出汁も効いてますし。ね? ね?」
寧々が慌てて訂正すると、ドヤ顔していた静が固まる。少し顎を上げた状態のままだが辛くないだろうか?
そしてゆっくりと顔を下ろすと、そのまま俯いてしまう。ほんの少し顔が朱い。
「なるほどねぇ。確かにそれもあるわね。だったら私は牡蠣のバター醤油パスタかなー。でもやっぱり最初はシンプルな方がいいわよね」
「だよね。おにぎりなら愛情そのまま詰まってる気がするもんね。梅干しなら甘酸っぱいし。コージの手で握ってくれたらそれだけでキュンキュンするっしょ」
「…………」
俺が恥ずかしいんだが? え、やめて? 言葉でそんなに恥ずかし責めしてくるのやめてほしい。
でも、凝った料理はちょっと直ぐには出来ないから夜か明日だなぁ。
しかし、おにぎりか…。具体的でよかった。三人とも汁ものなのは寒いからかな?
無言のまま外へ出る。
外はびゅうびゅうと風が吹いていて肌寒いが、この暑さにはちょうどいい。
外が寒くても全然耐えられる。寧ろ気持ちいいくらいだ。
とりあえず、アプリで二台のタクシーを配車する。
流石にこの量だからな。
待っている間に四人を見る。四人ともサイズの合わない制服ではなく、お店で買った服を着ている。
俺には選ぶこともコーディネートすることも出来ない。AIというより女の子の選び方だ。
まずユイだな。
淡いピンクのタートルネックに黒のハイウエストスキニーパンツ。そして黒のショートブーツ。そこにベージュのマフラーと。なかなかのコーディネートだ。
ただ、折角なんだからアウターも買ったら良かったんだ。白いニットコート見ていただろうに。
次は寧々さんだな。
ハニーイエローのシャギーニットカーディガンにアイボリーの消しプリーツロングスカート。カフェオレ色のストレッチスクエアトゥブーツにアイボリーの大判ストール。あったかそうだな。
寧々の見た目に凄くあっている。
星羅はというと、モスグリーンのコルセットワンピースにボルドーのケープコート。そこに漆黒のレースアップロングブーツ。真紅のファーティペットと、お嬢様感を消していないのは流石だ。
最後は静か。
ほのかな光沢の黒のリブニットに落ち感のあるダークブラウンのハイウエストロングスカート。黒のショートブーツ。
全体的にシックなのに一番派手に見えるな。
俺もよく分かったな…。部長の知識がなかったら全くわからなかったわ。
しかし、星羅以外は俺のコート着てるからちぐはぐなんだよなぁ。
星羅みたいにコート買って着ればいいのに。というか着ないんだったら返してくれないかな。
場所柄、そんなに待つことなくタクシーが到着した。
運転手さんに本人確認と行き先の最終確認だけしておく。
「じゃあ俺はこっちに乗るからみんなは後ろの方な」
「なんで? 一緒にのろーよ」
「そうですよぉ」
「いや、この荷物だぞ? 分けた方がいいだろ? それに直ぐだし」
「むー」
そんな寂しそうな顔するなよ。すぐだからさ。
不満そうにしていたが、何か思いついたのか、助手席の方のドアを開けて乗り込むユイ。
それに続いて、静、寧々、星羅と乗り込んでいく。
まぁ、素直にしてくれて助かるよ。
アプリで行き先も指定してあるので、わざわざ伝える必要もないしな。
一台目の方に荷物を載せて、俺も助手席の方に乗り込んだ。そのくらい買った荷物があるのだ。
「じゃ、運転手さんお願いします」
「承知いたしました」
ここからそんなに距離はないが、チラッとサイドミラーから後ろを見ると何やら楽しそうにしていた。
タクシーに乗るのがそんなに楽しかったのだろうか?
その頃二台目の方では──
「いやー、一度言ってみたかったんだよねー」
唯がニマニマしながら浮かれている。
「運転手さん「前の車を追ってください」」
唯が言おうとしたところで星羅が被せてきた。
「私も一度言われてみたかったんですよねー。夢が叶いました。はっはっは」
無表情だった運転手さんが朗らかな顔になって笑い出す。
「…………………」
後ろを振り返り、何かを言いたそうに睨む唯。
「……星羅、アプリで目的地は共有されているはずです。追う必要なんてないのでは?」
「ノリ悪いなー。ねー唯?」
「…しらない」
そのまま唯は窓の外をじーっと眺めているのだった。
「(はわわわわ。ちょっと星羅)」
「(何よ寧々)」
「(拗ねちゃったじゃないですかー。何で言っちゃったんですか?)」
「(だって、わたしも言いたかったし)」
「えぇ…」
「何をこそこそ話してるのよ」
窓の外を見ながら唯が不機嫌に答えたのだった。
唯は、窓に映った自分の顔が少し膨れている事に気づいて、慌てて前を向いたのだった。




