12 買い物に行こう①
みんながコーヒーを飲み終わった頃合いを見計らってある話題を口にした。
「それじゃあ、ちょっと買い物に行こうと思うんだが」
そう言うと、四者四様の反応を示した。
まず、静さんは『買い物に行く必要が?』みたいな表情をする。
そして、星羅さんは『買い物?』と反応が鈍い。
寧々さんはちょっとウキウキとした感じで『買い物いいですね』と新婚さんみたいな雰囲気を出す。
そういう反応されると、本当にそうなんじゃないかと勘違いしてしまいそうだが、寧々さんはセーラー服を着ているからね。間違ってもそういう雰囲気には流されない。なんとか踏みとどまっている。
そして、ユイはというと…。
「何してんの。早くいくっしょ」
既に部屋の出口へと移動していた。
寧々さんが奥さんだとすると、ユイは娘って感じだな。
なんて思っていたら、横から冷たい視線を感じた。
そちらを見ると、静さんが凍てつくような視線で俺を睨みつけていた。
その視線だけで、殺されてしまうかもしれない。
ギギギと音がしそうなほど硬くなった首を横に、むりやり動かすと、星羅さんも底知れない不機嫌な表情をしていた。なんでだ。そんなにまずかったのか?
静さんの視線が、皮膚を切り裂くような絶対零度の刃だとしたら、星羅さんのそれは、じわじわと体温を奪い、思考を麻痺させる真冬の夜霧のようだった。
よくそんな視線だけで、そんな温度出せますね?
今冬ですよ? 暖房が全く仕事をしてくれない。
俺そんなに睨まれるような事してないと思うんだよな。
気がつけば、寧々さんもユイの横に移動して、何を買うかなんて相談している。
でもね、皆さんお金なんて持ってないですよね?
これから買うのは、寝具と当面の衣類と食料だ。
プレゼントのアクセサリーを買うほど、クレジットカードの残高に余裕はない。
それに、ガールズトークを見ているのはいいんだが、ユイの上半身は白いシャツなので、見えてしまっているんだ。
これは早急に買わないといけないし、なんなら家ではもう少し貞淑な服を着てもらいたい。
なんでって? 心臓の鼓動が早すぎて、そのうち止まってしまうんじゃないかと気が気じゃないからだ。
ネットの中じゃ狼でも、リアルじゃハムスターなんだよ。
というわけで、眼福……目の毒なユイさんには少し淑やかさを持ってもらいたい。
一人震えていると、「フッ…」と声がした。
静さんがなんか手を伸ばしてきていたが、その瞬間ユイが「何してんの。早くするっしょ」と、両方の腰に手を当てて急かしてきた。
何故か静さんが小さく「チッ」としたのは気のせいだと思いたい。
そして、真顔で見ている星羅さんの方は怖くて直視できなかった。
というか、ユイの横で直立不動で真顔の寧々さんも怖かったんだが…。
寒いだけじゃなくて、空気も重い…。一体何が起きているんだ…。
俺が立ち上がると、無言の圧力から解放された。
そして、星羅さんと静さんが何を買うのか聞いてきた。
「光司様、一体何を買うのですか?」
「我々は別にこれといって困ってないのだが…」
ふむ。人間が生きていく上で、何が必要か分かっていないようだな。
「まずは食料。五人もいたらかなり使うし、何よりうちの冷蔵庫にはそんなに材料がない」
「なるほど…」「確かに…」
星羅さんと静さんが、顎に手をやり頷く。
「次に寝具。まぁ、現状狭くて申し訳ないんだが、布団を四つ並べれば隣の部屋でも寝られるだろう」
そう言うと、寧々さんが両手を合わせてニッコリと笑顔になる。
「あら。五人で川の字になって寝るんですね」
「いや。俺はソファで寝るよ」
「いや、一緒に寝ればいいじゃん」
ユイが、さも当然といった感じで言うが、俺が寝られないんだよ。
「まぁ、そこは後で考えるとして、最後に服だ」
「別にこれでよくない?」
「そうですよね。可愛いし、みんな着てますもんね」
「そうですね。別に不都合はありませんよ」
「寧ろ、こういうのが好きなんだろう? よく言ってたじゃないか」
「そうですね」「そうでしたわ」「確かに」
「ぐっ…。いや、あの…」
はいはい。もう言い訳しませんよ。好きですよ。これでいいですか?
だからって、そのまんまの格好でいいわけないだろう。
それ一着しかなかったら洗濯とかどうするんだという話になる。
あと、寧々さんの言う『みんな着ている』ってのはきっと、漫画やアニメのキャラクターの事だろうな。
作画楽だし、色々衣装とか考えなくていいしな。キャラによっては休日も制服だもんな。
それに不都合はある。
四人ともどこで手に入れてきたのか分からないが、サイズが合ってない。
まず、ユイだ。ボタンがはちきれそうになっているし、値札が付いたままだ。
次に寧々さん。敢えて狙ってるのか分からないが、サイズが大きすぎる。ゆったりを超えてダボダボだ。
対して星羅さんは、きっと分かっているんだろう。ブレザーのボタンを外しているのは、物理的に止められないからだ。
最後に静さん。完璧すぎて気づかなかったが、全体的に小さいサイズですよね?
それを見事に着こなしているから分からなかった。
でもこうして四人揃って見ると、かなりチグハグだ。
早急にサイズの合った服を買わねばなるまい。
その事を、なんとか説明して理解してもらった。
ちょっと頑固すぎやしませんかね静さん…。




