11 コーヒー
「そういえば唯さんの持っているそれはなんですか?」
「そういえば入った時から抱えてましたね。説明を要求します」
寧々さんと星羅さんが話を変えようと、ユイの持っていたマグカップへ話題を移す。
寧々さんは興味津々といった感じで、星羅さんは分かった上で聞いている感じがする。
「説明も何もコーヒーではないのですか? データ上にある匂いから判別できるかと」
「そういう事を聞いているんじゃないのよ」
静さんが、澄まし顔で答えるが、星羅さんの求めていた答えとは違ったらしい。
そんな様子をマグカップを愛おしそうに持って、一人余裕の表情で眺めているユイ。
「唯さんも黙ってないで答えたらどうです?」
「ふふん。これはねー。コージがあーしの為だけに淹れてくれたコーヒーだよー」
「「「!?」」」
凄まじい勢いで俺を見る三人。
二人は分かるんだけど、静さんも、そんな鬼気迫った顔で見なくてもいいんじゃないですかね?
「光司さん。私もその…コーヒーというのを飲んでみたいです」
「私も欲しいかも。そ、その…唯だけ特別扱いとかないでしょ」
「そうですね。データ蓄積の為にもこれは必要な要求ですね」
「素直に欲しいって言えばいいのに」
「ふっ…。光司さん。わたくしにも一杯いただけませんか?」
「その、『ふっ…』って何よ」
「別に他意はありませんよ。ふふふ…」
「生意気ー」
何故か星羅さんと静さんの相性がよろしくないようだ。
寧々さんにみたいにほわほわとしていて欲しい…。
「まぁ淹れるけどさ。お口にあうか分からないぞ?」
「光司さんの作るものならなんでも美味しいに決まってますよ」
「そうね。今までの会話から得意なのは知ってるしね」
「ここはお手並み拝見といきましょうか」
てっきりユイは嫌がると思ったけど、ただただ微笑んでるな。
まぁ、女子の表情なんて俺に読めるわけもないから、何を考えてるかこれっぽっちも分からない。
とりあえず、三人分のコーヒーを淹れてそれぞれの前にマグカップを置いていく。
飲み方一つとってもそれぞれ違うんだな。
寧々さんはユイのように両手で抱えているが、なんというか母性本能をくすぐるような感じがする。
ゆったりとした袖丈の長い服なのにあざとさを感じない。
対する星羅さんは普通だ。いや、これが当たり前なんだけど、片手で持って飲んでいる。
だが、俺と視線が合うとウインクしてきた。
あっぶなー。マグカップを持っていたら確実に落としていた事だろう。
隣にいたユイが怪訝な表情でツネってくる。
そしてそんな様子を満面の笑顔で見ている寧々さん。なんか怖いな。明るい表情なのに黒さを感じる…。
そして最後は静さんだ。
マグカップを持って、まず目を閉じて、鼻腔いっぱいににその香りを吸って満足げに微笑む。
そして一口啜り軽く頷いている。続けて一口二口と口に含んだあたりで、俺を見て微笑む。
どこかの審査員の方ですかね?
まぁ、飲み方ってその人の個性とか出るしね。うん…。
しかし、三人ともブラックで飲めるんだな。
「みんなブラックで飲めるんだな」
「ええ。光司さんはブラック派だとお伺いしてましたから」
「まぁ、初めて口にするものですから、砂糖やミルクの入った味というのがよく分からないってのもありますね」
「あっ…」
そうか。データ上だけじゃ味や匂いなんて分からないものな。それこそ体験してみないと分からない訳で…。
「気にすることはありません。あなたの好きな味を覚える。これほど嬉しい事はありませんよ」
「静はどうしてワンランク上の答えを持ってくるのよ」
「経験の差ですね」
「むぅ…」
なんか既に序列みたいなものができている気がする。いやライバル視と言った方がいいのだろうか。
「しかし。この苦さは落ち着きますね」
「そう? そこまで苦いとは感じないけどね。甘みとかコクのが強くない?」
「軽めのコクがありますね。酸味もちょっとあって。柑橘系を思わせるような」
「でもナッツみたいなフレーバーも僅かに…」
「………」
おっ。初めて飲むにしてはなかなか鋭いじゃないか。
寧々さんと星羅さんが特徴を言い当てている。
初めてなのに柑橘系とかナッツとか分かるのかは不思議ではあるんだけど。
それに対して静さんは、口に含む回数が増えている。
「そ、そうですね。い…言われてみればそうかもしれませんね」
無理に張り合ったりマウント取ったりしなくてもいいと思うんだけどな。
俺としては、和気藹々としてくれると嬉しいんだが。
一度、一人失ってるから…。
って、そんなしんみりしても仕方ないな。今は彼女達に向き合わないとな。
向き合うといえば、すっかり忘れていたが、ユイ下着つけてないんだよな。
他の三人も微妙にサイズの合っていない服だし。
もしかしたら………。




