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鯖、威張る  作者: 双鶴


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4/11

4話

「見た目も、知識の一部だ」

鯖波理比人は、鏡の前でジャケットの襟を整えながら、真顔で呟いた。

大学生活も2週間が過ぎ、彼は気づいてしまったのだ。

——誰も俺の博識に気づいていない。


クイズ研究会では「解説が長い人」として定着しつつあるが、

それは“面白枠”であって、“尊敬枠”ではない。

彼は、もっと“威張りたい”のだ。

見た目から、知性を滲ませたい。




理比人は、ファッション誌を買った。

『知的男子の春コーデ』という特集に目を輝かせた。

だが、ページをめくるたびに、彼の眉間は深くなっていく。


「……なんだこれは。白シャツ?デニム?それで知的?」


彼は、“知的”の定義に異議を唱えた。

「知的とは、思想と歴史を纏うことだ」




翌日。

理比人は、構内に現れた。

黒のタートルネックに、グレーのジャケット。

胸ポケットには、『法哲学入門』の文庫本。

首からは、“憲法第13条”が刻まれたペンダント。

そして、トートバッグには「I ❤️ Rawls」の缶バッジ。


「ふふ……これで、俺は“見た目から威張れる”」




だが、すれ違う学生たちは、誰も彼に声をかけなかった。

むしろ、少し距離を取っていた。


「なんか……すごい人いたね」

「え、あのペンダント、条文なの?」

「怖くはないけど……近づきづらいかも」


理比人は、それを“尊敬の沈黙”と解釈した。




昼休み。

クイズ研究会の先輩が、声をかけてきた。


「理比人くん、今日の服、なんか……すごいね」


「ありがとうございます。これは“思想を纏う”という試みです」


「……へえ。ちなみに、そのペンダントは?」


「憲法第13条。“すべて国民は、個人として尊重される”——僕の信念です」


「……うん、すごいね」


先輩は、笑いながら言った。

理比人は、その笑顔を“感銘の証”と受け取った。




午後の講義。

教授が「法と社会の関係性について、自由に考えてみましょう」と言った瞬間、

理比人は、立ち上がりかけた。

だが、隣の学生が「それ、プレゼンじゃないから」と小声で止めた。


理比人は、静かに座り直した。

——“俺の思想、まだ早すぎたか”




帰り道。

理比人は、スマホのメモ帳に今日の“成果”を記録していた。


• ファッション:思想的成功

• ペンダント:注目度高

• 先輩の反応:感銘(推定)

• 講義:発言未遂(反省)



「ふふ……俺の知識、ついに外見に宿ったな」


その顔は、どこか誇らしげで、どこか寂しげだった。

でも、彼は満足していた。

誰にも気づかれなくても、俺は俺を知っている。


彼は今、威張っている。ペンダントの重みを感じながら。




ちなみに、クイズ研究会のLINEグループでは、こんなやりとりがあった。


「理比人くん、今日の服、すごかったね」

「条文ペンダントは新しい」

「でも、なんか……かわいくない?」


理比人は知らない。

自分が、少しずつ“愛され枠”に移行しつつあることを。




こうして、鯖波理比人の“威張りサバイバル”は、また一歩進んだ。

彼の知識は、まだ誰にも届いていない。

でも、彼は信じている。

いつか、世界が俺に追いつく日が来ると。


彼は今、威張っている。誰よりも静かに、誰よりも強く。


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