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鯖、威張る  作者: 双鶴


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3/11

3話

「これは、戦だ」

鯖波理比人は、早押しボタンに指を添えながら、静かに呟いた。

クイズ研究会の交流戦——他大学との合同練習会。

部室の空気は、いつもより少しだけ張り詰めていた。


「緊張してる?」

先輩が声をかけてくる。

「いえ。これは、知識の決闘です。僕は、威張るために来ました」


先輩は笑った。

「うん、いいね。じゃあ、楽しもう」




交流戦は、3大学合同のチーム戦形式。

理比人は、クイズ研究会の“Bチーム”に配属された。

「Aチームは経験者中心だからね。Bは自由にやっていいよ」と言われたが、彼はそれを**“実験枠”**と解釈した。


「つまり、俺の知識が試される場だな」




第1ラウンド。

「“日本国憲法が施行された年は?”」


ピンポーン!


「1947年。昭和22年5月3日。ちなみに、公布は1946年11月3日。文化の日です」


「正解!」


理比人、初手から炸裂。

隣のチームの学生が「え、なんかすごいの来た」と小声で言ったのを、彼は聞き逃さなかった。




第2問。

「“フランス革命が始まった年は?”」


ピンポーン!


「1789年。バスティーユ牢獄の襲撃が象徴的です。ちなみに、ロベスピエールの台頭は——」


「正解!次いこう!」


司会が遮る。

理比人は、少しだけ不満そうだった。

——“解説まで含めて、俺の答えなのに”




第3問。

「“日本で最も多い苗字は?”」


理比人、指が止まる。


「えっ、それは……地域差があるし、統計によっても……」


ピンポーン!「佐藤!」


「正解!」


理比人、沈黙。

——“俺の思考、また深すぎたか”




第4問。

「““坊っちゃん”の作者は?”」


ピンポーン!


「夏目漱石。1867年生まれ、旧制一高の英語教師を経て——」


「正解!」


理比人、復活。

だが、隣のチームの学生が「また解説始まった」と笑っているのを見て、少しだけ胸が痛んだ。




第5問。

「““I have a dream”の演説をした人物は?”」


ピンポーン!


「マーティン・ルーサー・キング・ジュニア。1963年、ワシントン大行進にて——」


「正解!」


理比人、手応えあり。

——“俺の知識、世界に届いてる”




最終問題。

「““カレー”の語源は?”」


ピンポーン!


「タミル語の“カリ”。南インドの煮込み料理が語源で——」


「正解!」


司会が笑いながら言った。

「すごいね、解説が止まらない!」


理比人は、満面の笑みを浮かべた。

——“俺、今、威張ってる”




結果発表。

Bチームは、惜しくも2位。

Aチームが優勝をさらっていった。


「惜しかったね」

先輩が声をかけてくる。

「でも、理比人くんの解説、めっちゃ盛り上がってたよ」


「ありがとうございます。僕は、勝ちました」


「え?」


「僕の知識が、誰かの心に届いた。それは、勝利です」


先輩は、少しだけ笑って、少しだけ感心していた。




帰り道。

理比人は、スマホのメモ帳に今日の“成果”を記録していた。


• 憲法問題:完璧

• 苗字問題:反省

• 漱石問題:解説成功

• カレー語源:盛り上がり確認



「ふふ……俺の知識、やっぱりすごいな」


その顔は、どこか誇らしげで、どこか寂しげだった。

でも、彼は満足していた。

誰にも気づかれなくても、俺は俺を知っている。


彼は今、威張っている。誰よりも静かに、誰よりも強く。




ちなみに、交流戦の後、他大学の学生がこう言っていた。


「なんか、すごい解説の人いたよね」

「うん、ちょっと変だったけど、面白かった」

「また会いたいな」


理比人は知らない。

自分が、少しだけ“記憶に残る存在”になったことを。




こうして、鯖波理比人の“威張りサバイバル”は、また一歩進んだ。

彼の知識は、まだ誰にも届いていない。

でも、彼は信じている。

いつか、世界が俺に追いつく日が来ると。


彼は今、威張っている。誰よりも静かに、誰よりも強く。


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