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14 『明、暗』

前書き


長い間、お休みしてしまい本当にごめんなさい。


物語がまだ途中のまま、皆様を置き去りにする形になってしまったこと、ずっと心に引っかかっていました。


昨年の夏。

第二巻の構想は、第一巻よりもさらにハラハラと緊張感の増す展開へと進んでいきます。

けれど正直に言えば、その重さや深さに、当時の私はうまく向き合うことができませんでした。

未熟な部分もたくさんあるかもしれませんが、最後まで精一杯紡いでいきます。


どうか、またお付き合いいただけたら嬉しいです。

           茅ヶ崎 渚




刑事たちは、和やかな雰囲気の中で食事を終えた。

楽しそうに箸を進める姿に、まいの表情もどこか柔らかくなる。


「ごちそうさまでした。本当に、美味しかったです」


そう言って、若い方の刑事が深々と頭を下げた。


「いえいえ、たいしたものじゃなくて……ごめんなさいね」


照れくさそうに笑いながら、まいがそう返すと――


「とんでもない。僕たちにとっては、最高のご馳走でした」


もう一人の刑事がそう言って微笑み、まいに向かってぺこりと礼をした。


「では、任務に戻りますね。何かあったら、すぐに連絡してください」


そう言って、二人は玄関先で靴を履きながら振り返り、笑顔のまま去っていった。


扉が静かに閉まると、室内にほっとした静けさが戻ってくる。

まいはふっと息を吐き、小さくつぶやいた。


「……ほんと、優しい人たちだね」


「……ほんとだなぁ」


静かに、しかし噛みしめるように謙がつぶやいた。

その声には、どこか夢を見ているかのような不確かさと、わずかな安堵が滲んでいる。


「今、俺がこうしてここにいて……まいと並んで、こんなに穏やかな時間を過ごしてるなんてさ。まるで嘘みたいだ。今俺が置かれている状況を考えると信じられないよ」


ぽつりとこぼれたその言葉に、まいは静かにそっと頷いた。

頷きには何も言わずとも伝わる思いが込められていて、謙の胸に優しく染みていく。


ふと、謙が思い出したように顔を上げた。


「そういえば……まい、部屋、模様替えしたんだね。さっきここに入ってきた時、ちょっとびっくりしたよ。前と雰囲気が全然違っててさ」


「うん」

まいは小さく笑って、頬にかかった髪を指先で払った。


「少し片付けるだけのつもりだったんだけど……どうせならって思って、家具の配置も思いきって変えちゃったの。ちょっと気分も変えたくて」


「うん。すごくいいと思う。前より明るくて、なんだか新鮮だね。まいらしいっていうか、こういう雰囲気、なんか前の空気感が戻ってきたみたい…好きだよ」


謙の言葉に、まいの頬がほんの少し赤くなった。

二人は自然に目を合わせ、静かに微笑み合う。


言葉がなくても、今だけはそれで十分だった。

過去の痛みや不安が、今このひとときだけは遠ざかっていくような、そんな優しい沈黙が部屋を包んでいた。



だがその頃――

誰も知らない場所で、ひとりの男が静かに、しかし確実に“狂気”を育てていた。


その瞳には光がなく、口元には薄気味悪い笑みが浮かんでいる。

手元のノートには、異常なまでに緻密に練られた計画の数々。

赤く塗りつぶされた名前の中に、「高木謙太郎」の文字が、不気味に滲んでいた。


「もうすぐだ。あの夜が……再び訪れる」


そうつぶやく男の声は、どこか祭り囃子のような狂ったリズムを含み、暗闇に吸い込まれていく。


恐ろしい“祭り”の準備は、すでに着々と進んでいた。

それがどんな結末をもたらすのかなど、まいも、そして謙も――この時、知る由もなかった。


静かな午後の、その裏側で。

確実に、何かが動き始めていた。


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