第一章 フォーサイス家 第八話 フォーサイス家の使用人
「初めまして。この屋敷のメイドになりました。リリー•ホワイトです。よろしくお願いします」
今日何度目かの挨拶をする。コック、コック長、ヴァレットへの挨拶は一通り終わった。名前はそのうち覚えていくつもり。バトラーを探すが、なかなか見つからない。エイミーの話ではソニアさん同様ご主人様に付き添っていることがほとんどらしいので、そう簡単には見つからないだろう。夕食は使用人が揃うそうなので、そこで挨拶をしよう。
なお、リリーはいまだヴァレットとバトラーがなんなのかよくわかっていない。ペンダントの色で判断している。ペンダントが何についているかは役職によって違うが、位置は変わらない。
洗濯物を運びながら、時計を見る。そろそろ正午なので、乾かし終わったら部屋でお昼にしよう。洗濯物の籠を下に置く。魔水晶のかけらなる物を両手に持ち、
「『加熱乾燥』」
と、教わったばかりの魔法をかける。魔法石の一種、魔水晶は、自分の属性でない魔法も一時的に使えるようにする力があるそうで、今使ったのは火水晶。火魔法が使えるようになる。火なんてでていないけれど、熱を発するのも火魔法に入るらしい。この魔法はあまり知られておらず、貴族でも太陽の熱で乾かす所が大半だと聞いた。
こんなに簡単に乾かせる魔法があるのなら、もっとはやく知りたかった。洗濯物を干したり、とりこんだり、面倒だった。知ったところで、魔水晶なんて持っていなかったけれど。ふと、リリーはこれまで自分の口癖であった、面倒くさいという言葉を屋敷に来てからは発していないな、と思う。内心で思っていたこともあったが。もちろん仕事は面倒。でも、少し、少し、ほんの少しだけ、ここで働くのが楽しいと思える自分がいた。
部屋に戻って保管庫の三つある扉のうち、真ん中の扉を開ける。今日の昼食が一人分ずつトレイにのっている。これまた魔法石のうちの一つ、魔宝玉によって冷たく保たれているので、すぐには腐らないという。魔宝玉には、石自体に魔法を放つ力があり、一度魔法をかけると、解除用の魔法をかけるか、破壊するまで機能する。氷宝玉かとおもいきや、これは水宝玉らしい。氷宝玉にすると冷えるどころか凍ってしまうんだとか。
今度は上の扉を開く。火宝玉で熱くなったそこに、魚の入った皿と、スープの入った皿を入れ、扉を閉める。少し待ってから扉を開けると、できたてのような料理が。便利このうえないが、魔宝玉というよりかは魔法石自体、希少で高価なため貴族でもないと使えない。
そんなものを使用人に使わせてくれるとはありがたいご主人様。そして、最大の疑問、ご主人様とは誰なのかを早く誰かに聞きたいが、忙しくて聞けていない。今日中には知りたい。誰のもとで働いているかも知らないなんておかしな話だ。
もぐもぐと食べていると、エイミーが入ってくる。残り一つだった昼食はエイミーのものだったようだ。こちらに気づいてにっこり笑う。リリーも微笑み返した。エイミーはリリーよりもずっと慣れた手つきで食事を用意すると、リリーの隣にバフっと座る。そのまま二人で仕事の話やちょっとした噂話なんかをしたりして、三十分くらいすると、仕事に戻った。
ご主人様のことを聞く絶好の機会だったんじゃ?!なんて今更もう遅い。すっかり忘れていた。次こそ聞く。絶対。
エイミー、そしてついでに見つかったらラッキーくらいでバトラーも探しつつ、仕事を続ける。無限に湧き出てくるんじゃないかと思う洗濯物を洗ったり(リリーは水魔法が壊滅的に使えないので、魔法はあるが使えない)、乾かしたり(魔法で)、たたんだり。部屋の掃除、廊下の掃除、装飾品の掃除。
やっと夕食の時間。食堂へ向かう。さあ、バトラーさんはどこでしょう。赤いペンダント、赤いペンダント、赤い…いた!見失ってしまわないうちに追いつき、すみません、と声をかける。はい?とバトラーがこちらを振り向く。白髪の六十か七十くらいのおじいさん、は失礼かもしれないので、どう見てもおじいさんだがおじさんは片眼鏡をかけていた。
「初めまして。この屋敷のメイドになりました。リリー•ホワイトです。よろしくお願いします」
と、挨拶を。
「おや、初めまして。リリーさん。バトラーのミッド・グレーです。こちらこそ、よろしくお願いしますぞ」
いかにも執事という感じの話し方。バトラーって執事のことか。執事でいいじゃん。ペコペコしながら進んで食堂へ。他の三人はもう席に着いていたので、慌てて座る。昨日と同じテーブルだったので、役職ごとに席が決まっているのかもしれない。食前の祈りを捧げてから、今日の夕食を食べる。今日のメインはシチュー。ちょっと熱いけれど、美味しい。サラダの具も日によって違うようで、今日のサラダも、知らない具材だらけ。おいしいからよし。さて、今日こそ最大の疑問を解き明かす。
「ソニアさん、ここのご主人様って、どんなお方なんですか?」
「まだ話していなかったわね。教えるのはかまわないけれど、ふふ、ご家族もいらっしゃるし、親戚のお方とも同居していらっしゃるから、話すと長くなるわよ?」
「かまいません。気になりますので」
「ふふふ、それじゃ、明日の朝まで話そうかしら」
「…遠慮しときます」
そんなにたくさんいるとは思わなかった。隙を見て、少しづつ教えてもらおう。
今日ご主人様について知るのはあきらめ、お風呂へ。今日はエイミーにきちんと道を教えてもらい、部屋への行き方も完璧。安心してお風呂でくつろぎ、部屋へ戻ってベッドへダイブ。見ていたスノーがドン引きして、笑っている以外の顔も見られたと少し満足。エイミーを待つつもりが、いつの間にかリリーの意識は夢へと飛んでいっていた。