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第一章 フォーサイス家 第六話 おやすみなさい


「冷たき水、熱き火、重き土、軽き風、清き氷、激しき雷。自然の全て感謝して、いただきます」


 ソニアさんの声に皆続く。


「「「いただきます」」」


 これは食前の祈りというものらしい。あまりなじみのなかったリリーだが、エイミーに教えてもらった。そうでなかったら、皆が瞑目して手を合わせてて祈る中、一人で恥をかくところだった。リリーは目を開けて、目の前に並ぶ料理を見る。


 そこには、今まで見たこともないような食事が並んでいた。他の人からすれば、至って普通の食事なのだろう。だが、それこそリリーを屋敷に売り飛ばさなければ生きてもいけないほど貧乏な家で育ったリリーにとってはごちそうだ。


 香ばしい匂いを漂わせる肉は、油でテカテカと輝き、見ているだけでも涎が垂れそう。色とりどりの野菜(魚介類も混ざっていたがリリーにはわからなかった)が盛り付けられたサラダ。ふっくらと焼きあげられたパン。その横にはジャムまで。スープにミルクも。


 目をキラキラさせながら、フォークで肉を口に運ぶ。噛むと肉汁があふれ、柔らかい肉を噛めば噛むほど味が染み出る。この上ない幸せ。もう心置きなくこの世を去れる。去りたくないけど。


 その後もリリーは、この食材は何かと聞いたりしつつも、食事を口に運び続け、あっという間に完食してしまった。様子を見ていたソニアさんは、


「ふふふ、そんなに美味しそうに食べてもらえると嬉しいわ。作った甲斐があったわね」


「ソニアさんが作ってくださったんですね。とてもおいしかったです。ありがとうございます」


 てっきりコックが作っているのかと思っていたが、コックが作るのはご主人様の食事だけなのだろうか。あれ?ご主人様って、誰?今更ながら物凄い気になったが、先程、食材について質問攻めにしてしまったので、またそのうち聞こうと思う。


「ふふ、どういたしまして。リリー、この後はお風呂なのだけれど、大丈夫かしら?」


「はい」


 特にすることも、したいこともないのでいつでも大丈夫だ。


「それじゃあ、着替えとタオルは用意してあるから。エイミー、案内してあげて」


「はーい!リリー、行こー」


 エイミーに連れられて、あっちへこっちへ。ライトさん、もう少しお屋敷を狭くしてても、良かったんじゃないですか?移動だけで、体力が削られすぎるんですけど。脳内のライトさんに怒りをぶつける。


「着いたよー、次入るから、出たら部屋まで来て呼んでねー」


「わかった、じゃあね」


「じゃーねー、また後でー」


 服を脱いでたたみ、どこへ置いたら良いのか迷った末に、「洗濯」の札が下げられた籠を発見。丁寧に入れると、浴室のドアを開く。ピカピカに磨かれた石の床。なんという石なのかはわからないが、白っぽい色をしている。湯気がたちのぼっている浴槽に、リリーは身を沈める。心地よい温度のお湯に体も心も溶かされそう。


 ゆっくり体を休めたのち、浴室から出てからタオルで体を拭き、服を着替える。髪の毛を乾かそうとして、ピタっと動きが止まる。髪を乾かす時に使っていた民衆魔法を忘れてしまった。そのうち思い出す事にかけてとりあえずは頭にタオルを巻く。エイミーを部屋に呼びに行かなくては。ドアを開き、隣の部屋に出る。さあ、出発。エイミーの待っているメイド専用室へ。…どうやって??


 しばらく屋敷をうろうろさまようと、人影が見えた。嬉しくなって駆け寄る。角を曲がって近づこうとしたが、会話しているのが聞こえ、足を止める。


「ああ、そうだね」


「日程は」


「いや、まだわからない。だけど、そろそろつく」


「かしこまりました」


 何の話だろう。何がつくんだろう。気にはなったが、話の邪魔をするのも悪いと思い、立ち去ろうと一歩後ろへ。が、よろけて後ろにこけてしまう。


ドタッ


 音に気が付いたのか一人がこちらへやってくる。


「大丈夫ですか?」


 そこにいたのは、長い髪の毛の人だった。うすいミントグリーンの髪を高い位置で結んでいる。声からして男の人だとわかるが、女性だと言われても違和感はない。


「あ、はい。大丈夫です」


 慌てて立ち上がる。その時、視界の端をオレンジ色の何かがチラッとかすめた気がした。


「ありがとうございます。えっと…」


「フォーレン•ドナルド。あなたは?」


「リリー•ホワイトです」


「リリーさん。どうかしましたか?」


「道に迷ってしまって…」


「どこへ行くんですか?案内しますよ」


「メイドの部屋に」


「ああ、こちらです。着いてきてください」


「ありがとうございます」


 何とか助かった。部屋に着いたら、エイミーに謝らないと。


「着きましたよ」


「ありがとうございます」


「いえ、それでは」


 互いにペコリと頭を下げる。リリーはドアを開けて、中へ入った。それを、フォーレンが二つの黄色い目でじっと見つめていた。クルリと踵を返したフォーレンの顔からは、先ほどまでの笑みが消えていた。


 部屋に入ったリリーは、ごめん、遅くなったと謝ろうとしたがそこに謝るべき人の姿はなかった。


「エイミー?」


「探しに行った」


 スノーの声がして、驚く。どうやらエイミーは私を探しに行ってしまったらしい。慌てて閉めたばかりのドアを再び開けて外へ出ようとする。しかし、リリーが開ける前にドアが開き、エイミーが入ってきた。お風呂を出た後のパジャマ姿で。


「エイミー!」

「リリー!」


 二人の声が重なる。


 リリーは謝り、エイミーは笑い、スノーがお風呂へと部屋を出る。


 スノーが部屋へ戻ってきた時、二人はもう寝ていた。リリーの髪が少し湿っている。


「『洗髪乾燥(ラミア•カルマ)』」


 スノーが魔法をかける。落ちていたリリーのものであろうタオルを拾うと、


「おやすみなさい」


 静かにつぶやき、部屋を出た。

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