第一章 フォーサイス家 第五話 魔法の特訓
「目、閉じて」
「え?」
急になんだろう?
「精霊魔法をかける」
「ん?」
なんで?
「魔法が使いやすいよう」
どうやら、魔法が使いやすいように、と、精霊魔法をかけてくれるらしい。
スノーに言われるがまま、ゆっくりと目を閉じる。視界が一気に黒くなり、いつもなら当たり前のことなのに、急に不安になる。自分が黒い暗い闇に沈んで行くような錯覚にとらわれ、不安が広がっていく。どうしてだろう。目をつぶれば、何も見えない。当たり前。だが、緊張しているのか、それとも、気にしていなかったことを意識して行なっているからなのだろうか。何も見えないことに恐怖を感じる。
考えれば考えるほど深い闇に落ちていくようで、他のことを考える。精霊ってどんなのなんだろう。どんな魔法をかけてくれるんだろう。色々と考えを巡らせるうち、ふと、今、目を開けたら、スノーはどんな顔をしているのだろう、なんてことも考え始める。
「『水魔法補助』」
それと同時に、目を開けたわけではないのに、目に景色が映った。リリーの体が水に包まれていく。温かい水、冷たい水。明るい水、暗い水。かたい水、やわらかい水。重い水、軽い水。優しい水、悲しい水、楽しい水、恐ろしい水。流れる水、止まる水。浮く水、沈む水。青い水、水色の水、透明な水、黒い水。それらは渦を巻いてリリーを取り囲み始めた。水の中。静かな水。動くその水は最終的には小さな球体になり、ヒュンと動くとリリーの目の前ではじけとび、水がかかる。
しかし、
「目、開けて」
というスノーの言葉で目を開けると、リリーは少しも濡れていなかった。確かに水に包まれ、浴びたはずなのに。
「あの、どうして、濡れていないんですか?」
「濡れるようなことは起きてない」
全身に水浴びる、というか包まれるのって濡れるようなことだと思うのだけれど…。
「え、あの、水、浴びて…」
「それは精霊界。ここは人間界」
つまり、私は精霊界に行って、水を浴びた。ここは人間界だから、精霊界での出来事の影響は受けない、みたいな感じなのだろう。
「それだと、補助?の効果って、人間界に来たら意味ないんじゃ…」
「精霊を人間界に呼んだ」
さっきの水が精霊なのだろうか。気になって聞いてみる。
「精霊って、あ、水の精霊っていうんですか?って、どんなのなんですか」
「あなたが見た」
「スノーさんは見たこと、ないんですか?」
「自分の属性以外は見れない」
なら、スノーさんは氷の精霊が見えて、私には水の精霊が見えることになる。そこまで理解し、疑問を発見。発見というか、そもそもずっと疑問だったので、再認識といったところ。精霊とは?
「そもそも、精霊ってなんですか?」
「馬鹿、阿呆、どちら」
馬鹿でも阿呆でもないです。でも、ちょっと常識が無くて、ちょっと記憶力が悪くて、ちょっと面倒くさがりなので、もう少し言葉を用いて事細かにわかりやすく説明していただけるとありがたいです。とか言うと『万物撃砕氷刃』で粉々にされそうなので、聞こえなかったことにして、もう一度。
「そもそも、精霊ってなんですか?」
「…。自然の力」
「もう少し教えていただけませんか?」
「自然のものが魔力をためこむ。自然の魔力が集まって精霊になる」
精霊というのは、魔力の塊的な感じらしい。精霊については大体わかった。そろそろ、魔法を使ってみたい。
「魔法、使ってみても、いいですか?」
「好きにして」
よし!とはいえ、どんな魔法があるかもわからないので、とりあえずソニアさんの言っていた『激流』を使ってみようと思う。唱えるだけで使えることを祈る。
「『激流』」
両手を前に出し、そう唱えた。突如として水があらわれ、流れ出す。
ポチョン
一滴、水が、たれた。リリーは硬直。これが、激流?どこが?名前つけた人ネーミングセンスのかけらもないねー。あはは、あは、は…。
そんなわけ、なくない?私、魔法、下手くそすぎない?ここまで下手くそで、適性あるっていえる?え?本当にネーミングセンスが終わってただけ?
「あの、これって…?」
スノーは顔色一つ変えずに、ただ、一言。
「才能がない」
「え、適性…」
「適性はある。才能がない。」
知りたくなかった。言わないでほしかった。隠すでも無く、ストレートに言われた。嘘でも、ちょっと失敗しただけだよ、とか、一緒にがんばろ、とか、あるじゃん?スノーさんは言ってくれなさそうだけど。ぶつくさ言うリリー。
すると、スノーが口を開く。
「練習しないとゴミ」
再び、リリーの胸に深く突き刺さる。リリー•ホワイト、本日の収穫、スノーさんは口が悪いとわかりました、おしまい。
あーあ、魔法、使ってみたかったなー。才能がないなら、練習したって…ん?先程のスノーの言葉を思い返す。練習しないとゴミ、つまり、練習すれば、ゴミじゃなくなる、かも!?
「ス、スノーさんっ!練習したら、もっとまともに魔法、使えるようになりますか」
「場合による」
「じゃあ、あの…、教えていただいても、いいですか?」
断られてしまうだろうか…。
「時間があれば」
リリーは胸が高鳴るのを感じた。
「夕食の時間」
そう言ってスノーはその場を離れる。そういえば、今日はまだ何も食べていないので、お腹が空いた。
「ま、待ってください」
スノーが少し立ち止まってくれたので、急いで追いつく。
「一緒に行っても?」
「勝手にして」
「はい!」
そう返事をするリリーの顔は、嬉しさで輝いていた。
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