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第一章 フォーサイス家 第二話 初めての仕事


「でー、まずは、服についてだねー」


 私は今、この屋敷のルールを教わっている。仕事なんて、好きじゃないけど、でも、エイミーとなら頑張れる気がしてきているので、あんまり初っ端から難しいことを言われないかとドキドキしつつ次の言葉を待つ。


「じゃあねー、そのメイド服についてるペンダントからかなー」


「これ?」


 と先ほど着替えたばかりの服の襟元についているペンダントを見る。青く透き通った宝石をじっと見つめていると、吸い込まれてしまいそう。宝石のふちは金色で、太陽の光を浴びてチカチカと光っている。エイミーの襟元にも同じ物がついている。


「そーそー、そのペンダントの色にはね、ちゃんとした決まりがあって、メイドは青、メイド長は紫でー」


 言われてみると確かに、メイド長の服には紫色のペンダントがついていた気がする。多分。


「でー、コックが、えっとー、黄、色?かな?でー、コック長はー、えっとー、緑かもー」


「かも?」


 何だか怪しくなってきている気もするが、気のせいだろう。気のせいだよね。うんうん。大丈夫、大丈夫。そう自分に言いきかせる。


「でねー、ヴァレットだかバトラーだかが赤だか橙色だかねー」


「いやどっち?!」


 思わずなんとなく突っ込んでしまった。でもこれは正常な反応だと思う。そもそもヴァなんとかと、バトなんとかがわからない私に言えることではないと思うが。エイミーはうーん、とうなっている。そこへ、白というか銀というかというような髪色をしたメイドが通りかかった。ニコニコとした表情をしているが、スタスタと進んでいく様子はその表情に似合わない。灰色の目は何も映しておらず、かろうじて宿った一筋の光も今にも消えてしまいそう。エイミーはそのメイドにダッと駆け寄ると、


「ねえー、スノー、ヴァレットとバトラー、どっちが赤いペンダントだったー?」


 そのメイド、スノーはニコニコと笑ったまま、


「バトラー」


 と、それだけ告げると長い髪の毛をうねらせながら去ってしまった。笑った顔に対して、その声は冷たかった。なにか、突き放すような、あるいは、何の感情もこもっていないような、そんな声だった。エイミーは特に気にする様子もない。いつも通りなのだろう。少し不気味に感じたのはどうやら私だけらしい。


「だってー。スノーがいてくれてよかったよー。と、ペンダントはこれでオーケー。次は、そのリボンとガラス玉だねー」


 スノーのことは少し気になるが、とりあえず今は仕事に集中する。

「リボン…ってこっち?」


 この服にはリボンが二つついている。一つはペンダントの下についている(リボンの中心部にペンダントがあると言ったほうが正しいかもしれない)リボン。もう一つ。こちらはリボンというのかはわからないが、エプロンの腰あたりをくくっている。そして後者のリボンにガラス玉がついている。リリーは前者のリボンを指で示した。こちらのほうが一般的にリボンと呼ばれると思ったのが──、


「あっ、ううんー。こっちー」


 言いながらエイミーは、自分の腰のリボンを両手でみょーんと左右に引っ張る。リリーはそれにつられてエイミーのリボンを見つめる。と、違和感。エイミーのリボンは薄い赤色をしているが、リリーのリボンは薄い青色だった。


「色、違うの?」


「うん、このリボンには『魔法探知(ルノ•ヨルマ)』っていう魔法がかかっててー、その人が使える魔法によってー、色が変わるのー」


 民衆魔法しか使ったことはないから、青が民衆魔法を示す色なのだろうとは思うが、一応聞いてみる。


「青色は何の魔法が使えるの?」


「水だよー。ちなみに、赤は火ねー」


 水の魔法なんて使ったことがない。リリーは疑問をそのまま口にする。


「水の魔法は使ったことないし、使えないと思うんだけど…」


「あー、これはね、使ったことがあるかよりも、適性があるかなんだよねー」


 適性。六大魔法は、適性がないと使えないと聞いたことがある。関係ない話だと思っていたが、使えると聞いて少し嬉しくなる。でも──、


「六大魔法って、そもそも何なの?」


 ぽろりと本音をこぼすリリー。


「えっとー、水、火、土、風、氷、雷のー、六つの主要魔法の総称だよー」


「へー」


「んー、リリーってさー、知らないことが多いような…」 


「まあ、あんまり知ろうとしなかったっていうかなんというか…」


 リリーは貧しい家で育ったため世間一般の常識というものをあまり知らない。まずは、知識を頭に詰め込まなくてはならない。嫌だな。勝手に覚えられる魔法的なのないかな。


「ふーん、まー、そんな感じねー。ガラス玉もおんなじ色だからー、説明は省くねー」


 じゃあどちらか片方でいいのでは、と思う。覚えることを増やさないでほしい。


 と、そこへ、


「メイド長が呼んでる」


 と、笑顔のメイドがやってきた。冷たく響くその声の主、スノーはニコニコしているのに、声も、仕草も、少しも笑っている感じがしなかった。エイミーの話を聞き、スノーのリボンとガラス玉をそっと覗く。薄い紫色をしたリボンについている同色のガラス玉は、こころなしか、少し曇っているように見えた。


「あー、スノー。わかったー。どこに向かえばいいのー?」


「ついてきて」


 スノーはすぐに向きを変えると、屋敷の入り口に向かって歩き出した。歩くのが速く、ついて行くのに苦労する。そのまま扉を開けて、広間のようなところを通り過ぎて、階段をのぼる。扉を開ける。のぼる、開ける、開ける、のぼる…。


 足が悲鳴をあげ始めたころ、ようやくついたそこは、どうやらメイド専用の部屋らしかった。


 たくさん並べられたベット。クローゼットには様々な大きさの、整えられた制服。そんな部屋を想像していたリリーは部屋の中を見て絶句した。


 その部屋にあったベットはわずか四つ。小さなクローゼットの扉は閉まっていたが、十着入るか入らないかくらいだろう。窓は大きく、カーテンが、開け放した窓から入る風に揺れている。だが、窓以外の何もかもが想像よりも小さく、いや、少なく感じられる。


「ふふ、このお屋敷のメイドはね、四人しかいないの」


 まさか、この大きくて広い屋敷を四人のメイドだけで管理しているわけではないと思う。他にもコックや何ちゃらがいるとエイミーも言っていた。だとしても、他の役職の人数もこれと同じくらいなのだとしたら、どれだけ優秀な人たちなのだろう。名前を覚える人が少なくて済む。感謝しかない。


「リリー、この屋敷の、使用人はねー、十三人なんだよー」


 エイミーの発言にリリーは本当に目玉が飛び出るのではないかと思った。

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