6話
「調子に乗るな!」
近づいてきたエリアスの額に指を持っていきデコピンをするアリア。
「いた…」
不服そうな表情で額を押さえアリアの方を見るエリアス。
「どさくさに紛れて何しようとしてるのよ!?」
(危ない。あのままだと本当に流されてコイツとキスするところだった)
「キスだけど?」
「開き直るんじゃないわよ!」
悪びれもせずに堂々とした態度のエリアスに怒りを覚えるアリア。
「だって行けそうだったし」
「行けないわよ! あ、アタシはそんなチョロくないから!」
内心では雰囲気に流されそうだっただけにアリアは少し動揺する。
(こんなのが続いたらアタシの心がもたない。心の平穏を保つためにもコイツの真意をハッキリさせないと!)
「まあいいや。とっとと行こうぜ」
「デートってどこに行くつもりなのよ?」
行き先を聞いていなかったアリアは前を歩くエリアスに質問する。
「どこだと思う?」
「知らないわよ」
「じゃあ、着いてからのお楽しみ」
エリアスとしても最初から教えるのではなく、サプライズとして伝えた時の喜んだアリアの顔が見たかったためギリギリまで秘密にしていた。
「あとどのぐらいするの?」
一方エリアスから目的地を秘密にされていたアリアは「早く着かないかな」なんて心の中で思いながら大通りを歩いていた。
(この前は夜で人通りも少ない場所だから気にならなかったけど、この時間帯に歩くと女性たちの視線が気になるわね…出来ることなら早く目的地に到着したい)
「着いた。この店」
「え…『パティシリーゴレイヌ』って少し前に王都に出来た凄い人気のケーキ屋じゃない!」
「そうだよ。じゃあ入ろうぜ」
「「入ろうぜ」って気軽に言うけどアンタは知ってるの? ここのケーキ屋は凄い人気でなかなか予約も出来ないのよ? 簡単に入れるお店じゃないの」
「大丈夫」
「本当に大丈夫?」
アリアはお店の中に入った瞬間に門前払いされるんじゃないかと不安を感じながらもエリアスについていく。
「いらっしゃいませー」
「予約していたエリアスです」
(え、予約? 本当に予約してたの? というかコイツって店の予約とか出来るんだ。もっと自由な行き当たりばったりタイプかと思ってた)
「はい、エリアス様ですね。お待ちしておりました」
「それではお席までご案内致します」
ウェイトレスに案内されて席に着く。既に店の中にはスイーツの甘い匂いが充満していてアリアの空腹を刺激する。
「それではごゆっくりどうぞ」
ウェイトレスが去ったのを見てアリアは話しかける。
「ねぇ」
「なに?」
「この店っていつ予約したの?」
デートする事が決まったのは昨日なのに予約を取れたことを不思議に思い聞くアリア。
「昨日」
「昨日!?」
「そうだけど」
「運が良かったのね」
予約を取るのも大変という噂を聞いていたアリアは、昨日の今日で予約出来たことには驚いたが、食べたかった『パティシリーゴレイヌ』のケーキを食べれるのならいいかと深く考えないことにした。
「そうだね」
話しがひと段落ついたタイミングでアリアの後ろからエリアスを呼ぶ声が聞こえた。
「お久しぶりですエリアスさん」
「おー、今日はサンキュー」
「知り合い?」
「初めまして! 店主のアレックスと言います!」
その瞬間にアリアは思った…
「コネじゃねーか!」