68 閑話 秘密を抱く人3
セレナの大鎌の一振りから放たれる黒い砲撃が堕天使を襲った。驚いたように堕天使がその場を飛び退く。それでも避けきれなかったらしく砲撃がかすった頬が黒く傷付いた。その後も続けて襲う砲撃に堕天使は回避に必死だ。その身に傷を増やしている。
ああ、これは格が違う。戦闘は始まったばかりなのに既に結果が見えてくることに驚愕する。これまで見たどんな人よりも強く美しい姿に気がつけば視線が釘付けになっていた。
「汝 我に敵意を抱いたと判断 此れから攻撃に移る」
堕天使はその手に大きな斧を出現させ、地を蹴り、セレナめがけて飛んできた。空中戦が始まった。
高速で切りつけて来る堕天使に対してセレナは躱しながら立て続けに黒い砲撃を放つ。堕天使は砲撃の直撃を防ぎながらセレナの懐に迫るように攻撃を繰り返す。
「そんなものなの? その程度とは堕天使って大したこと無いのね 私、買いかぶりすぎていたのかしら?」
セレナの余裕ありげな態度にも動じず堕天使は口を開いた。
「汝、我に敵対せし者 よって我、汝に加重の制裁を与える」
すると、堕天使の持つ斧が赤紫の光を纏った。そこからは少し堕天使が持ち替えした様にも見えた。
しかし戦場の趨勢は変わらない。黒い砲撃が堕天使の右の羽を捥ぐ。堕天使がよろけて墜落しそうになる。また、黒い砲撃が、左の腕を撃つ。堕天使の左腕に大きな傷が付いた。さらにかろうじて宙に留まっている堕天使の左の羽を打ち抜く。また羽根が散った。
「地に落ちてあがきなさい」
しかし、堕天使は落ちなかった。どういう原理なのか?セレナが見せた飛行魔術とは質が違うことは理解できる。
「へぇ面白くなってきたわね ではこちらも見せてあげましょう」
セレナはそう言って、砲撃を繰り出しながら、攻撃を受け流す。堕天使はボロボロになった体を無理矢理動かして攻撃を受けつつも攻撃を放っていた。
ああ、決着だ。そんな確信を抱いた。
堕天使が大きく回転をかけながらセレナの懐に入り込んできた。遠心力を利用し、加速した斧が彼女に迫ってくる。その斧をスルリと避けて、セレナががら空きの胴に鎌の一撃を放つ。
「魂喰い」
鎌から放たれたどす黒い斬撃が堕天使を貫いた。堕天使が灰となって崩れ落ちる。
「意外と快感ね」
ずぅん、体中に衝撃が加わった。これが質量?その場に立っていられなくなり床に手をつく。ああ、戻ってきたんだ。強烈な痛みの中、私は哄笑した。
その後の記憶は無い。
目が覚めたとき一番に見えたのはゆるりと微笑んだセレナの顔だった。
「お早う、いえ、随分と寝ていたようだからおそよう様かしら」
ひ、膝枕!?
「…あ、う、これは?」
ゆっくりと起き上がる。恥ずかしさで顔から火が出そうだ。
「貴方は急に質量が戻ったことで倒れたの、うん、体に特に異常はないようね 何かあったらまた連絡して」
まるで何てこと無い顔をした彼女はそう言ってその場を立ち去った。
へえ、その顔が余裕をなくすのをみてみたい物だね。
(奇跡的に、セレナとカルドの考えは一致した。相手を虐めて泣かせたいという一点で。)
後書き失礼します。
言い訳させてください。
こんな閑話にするつもりじゃなかったんです。ちゃんと純粋な少年させるつもりでした。でも、私の性癖がミックスされてこんな惨状に…ああああああ、プロット修正しなきゃ。
次回から本編に戻ります。