59 図書館少年
前回登場の水色の髪金の瞳の少年との邂逅編です。
私が図書館に通うようになって早一月。秋も深まりもうすぐ冬になろうという今日この頃、私は図書館の1階の本棚の間を縫うように歩いていた。
ねえ、シュバルツ君。信じられる?
{何が?}
この「世界ダンジョン攻略・調査年鑑」(今年度版)によるとこないだ攻略したフィーレダンジョンってさ、100層までしか攻略されてないらしいよ…あれ、200層もあるのにまだ半分だって。
{君がどれ位異常なことをしてるか客観的に把握できて良い機会になったんじゃないかい?}
そう、かも?ま、深く考えないことだよね。
{相変わらずの潔い開き直り^^}
うむむ次は何を読もうか?
{このあたりの歴史書はもう読み切ったんだろう こっちの文学書はどうだい}
ああ、いいかも。じゃあ次はこの本に、とか考えていたそのときだった。
{真上だっ!}
上を向くと、吹き抜けになった2階の手すりから焦った表情で手を伸ばす見覚えのある顔の少年とこちらに向かって落ちてくる分厚い数冊の本が見えた。それはもう反射だった。本を落としたら本が傷ついちゃう!
トンっと床を蹴り私は魔術で浮き上がった。全ての本の落下軌道を回り左手に本を回収する。1冊、2冊、3冊、4冊、5冊ここまでわずか数秒。回収したらふわりとそのまま浮上して、吹き抜けの2階部分でストップ。浮かんだまま、唖然とした表情の少年に左手を差し出す。
「これは貴方が?」
「……あ、ああ私が落としてしまった」
戸惑いながら本を受け取った少年はその重さに耐えかねたのか少しふらつく。
「んッ 大丈夫?」
慌ててその体を支えるとあまりの軽さ、いや体重なんて感じられないことに気がつく。どうなってるのかな?
「ああ、すまない」
そう言う少年の金の瞳が思いのほか暗く濁って見えたものだから思わず言葉が口をついた。
「こういうときはありがとうと言うのですよ?」
「…ありがとう」
ふう、本は回収できたし、問題なしっと。踵を返して帰ろうか。
{いや問題しかないでしょ この少年以外誰もいないとは言え何浮いてるのさ 飛行魔術なんて君ヴァイスなら息をするように使ってるけどセレナの年で使える人何てさ、いないんだよ! ヴァイスの身バレにつながったらどうするのさ 大体迂闊に魔術を使うことは控えるべきだ!}
あ、迂闊だった。
{はぁ、どうするのさ ちなみに彼とは社交で挨拶してるよ}
え”、ホントに?あ、思い出した。ゲレールター公爵令息だ。
{正解だねぇ いや、それにしても、なぜ彼には体重がないんだ?}
「あの、ナロウ公爵令嬢、このことはどうか内密に願えませんか?」
「体重がないことですか?」
「ええ、私にはおおよそ重みというものがないのです ここだけの秘密にしていただけないでしょうか」
「分かりました では私のことも内密に願えますか、ゲレールター公爵令息 この魔術のことは秘匿しておきたいのです それで取引といきましょう」
「ええ、もちろんそれで構いません」
少年は微笑んだ。その痛々しい笑顔に胸が痛む。
{ショタの顔が曇ってる、だとっ!}
これはゆゆしき事態だね。どうしてくれようか。
これがゲレールター公爵令息ことカルドとの出会いだった。
本日アクセス解析をみると6000pvを超えていて嬉しかった作者です。
最近、ギャグ風味が足りないかもと自分の作品に不安を覚え始めたのですが、一回シリアスパート(?)を乗り越えたらギャグに戻れるはず…
シュバルツ:{ギャグ風味が足りない?ギャグしかないだろう}
作者:いや、足りないんだ!最近書いてた短編とかに比べたら全然ギャ、グ風味が…
セレナ:…君、また他の作品に浮気しやがって(怒)!!!
作者:ごめんなさい。ごめんなさいぃぃぃ。
補足:「この話(59話)の冒頭に出てきたフィーレダンジョンって何だったけ?」となっている皆さん。フィーレダンジョンは衣装周回で666回200層目を攻略し、ヴァイスが魔王教と騎士団の前で謎の美少女プレイをかましてたダンジョンだよ^^