44 帰っていいですか?
こうしてまた春が巡ってきた。私の社交デビューからかれこれもう一年ということだ。早いような短いような。
{早いも短いも大して意味変わらないよね}
あ、バレた?
そして、社交能力の低い、貴族として終わっている公爵令嬢こと私は王宮の春のパーティーに来ていた。もうだめ、帰っていいですか?
{ヴァイスとして振る舞っているときと自信の持ちようが全く違うの面白い}
あの、人混みとか無理だから。私、コミケの人混みくらいしか知らないから。あれは大丈夫だけどね。
{コミケは行けたんだ}
あったり前、同士ばかりだから。広い意味でコミケに来てたらもう同士。
でもお祭りとかは行かないし、花火とかも家から見るかテレビ中継で見る派だったけどね。繁華街とかきつい。
{興味なかったらもう無理なのが面白い}
ねぇ。人の苦手なものをさ、面白いで片付けないでくれないかな?
{すいません}
「あら、お久しぶりですわね、セレナ」
「オランジェット! お久しぶりですわ ああ、貴女がいてくれてよかったですわ」
「どうしたのです?切羽詰まった顔をしておりますけど」
「その、人の多さに圧倒されておりまして 少々」
「ああ、なるほど でも意外ですわ 刺繍以外は何でもできそうなセレナが人混みが苦手だなんて」
「もう、刺繍のことはいわないで頂戴 オランジェットも得意ではないでしょう?」
「そうですけど、貴女よりはましですわ 貴女ったら3針縫うだけで指に刺すし、玉結びもろくにできないでしょう?」
「まあ、そうですけれど」
思わずむくれてしまう。オランジェットとは1年も一緒に茶会に行ったり、なんやかんや付き合いがあるのだ。素の表情が出そうになる。
「ふふふ、少し戯れが過ぎましたわ 何か飲み物でも飲みません?」
「そうね、飲んで食べ倒してやりますわ」
「内容が公爵令嬢らしからぬのは見て見ぬ振りをして差し上げます」
「ありがとう」
微笑んだら微笑み返された。オランジェットがマジ癒やし。
オランジェットと食事を楽しんだり、いろいろ話をしてそれなりに楽しく過ごしていたが、夜会も佳境に入ろうというところで私はオランジェットと王宮を後にすることにした。このあたりからは婚活パートだ。残りすぎると勘違いされる。
貴族の婚姻は基本親が決める。だが、従士階級や、王宮官吏なんかは結構自由恋愛している。それがなぜか最近は爵位持ち貴族にも自由恋愛がはやっているらしい。そういうわけで、残っていると婚活に巻き込まれるのだ。他人のことだから勝手にしていたらいいと思うが巻き込まれるのはごめんだ。
{そういう風潮とリーベが聖女であることがあいまって王子と結婚できるという原作背景を反映してるね}
君も庶民聖女読んだ?
{面白くて一気読みしたよ}
帰ろうと思い、会場を出ると、何やら人影を見つけた。
「オランジェット、あそこに何やら集まっているみたいなのですが…」
すると急に怒声が聞こえてきた。
「貴女ねぇ!いい気になってんじゃないわよ!」
け、喧嘩か?
「何事でしょうか!? セレナ、どうしましょう? どうも多数で一人を囲っているように見えるのですけれど…」
私にもそう見えるよ。本当にさ、面倒ごとって忘れた頃にあるよね。
「さて介入させてもらいましょうか」
「セレナ!?どうしたのです?妙にやる気の貴女なんて初めて見るのですがなんとも言えない不安が…」
{オランジェットは本当に君のことよく分かってるよね 不安が…ってなるよね 本当に君、急にどうしたのさ いつもの君なら放っておくよね? 君、ミステリアスイベント以外興味ないよね?}
シュバルツ君、聞いて驚け!これはチャンスかもしれないぞ
{全く聞いてないね、そして何のチャンスなんだい!?}