37 閑話 こちらシャッテントゥルムローラー作戦部隊です
ビーネ視点です。
ヴァイスがシャッテントゥルムに魔王教撲滅のための王国ローラー作戦を頼んだときの話です。
僕はビーネ、今日は魔王教の拠点の一つを殲滅する予定だ。
僕は今、王都より西の水の都と呼ばれる街にやって来ている。運河が街中を走り、船が行き交う美しい街だ。夜になったら作戦を開始するので、その前に下見に行く。
街の細い路地の奥にある質屋。ここがこの街の魔王教の拠点だ。軽く脱出経路などを確認して僕はその場を立ち去った。
夜が来た。
「それじゃあ 始め」
質屋の扉を切る。中を切らずに扉だけを切る練習なら何度も繰り返してきたから実は密かな特技だったりする。
中には男が一人いた。
「おい嬢ちゃん、何のようだ?」
「僕が何をしに来たか知りたい?」
そう言いながら男との距離を一息に詰めて喉笛を掻き切った。とび散った血が質屋のカウンターを汚した。
次に行こうか。
建物の中を捜索する。出会った相手を全員斬り殺していく。抵抗する相手もいるが、国内で最も実力が高い暗殺ギルドの幹部をしていた僕にとってこれくらいは造作もない。
ヴァイスには余裕でやられたけどね。あの人は実力が半端ない。うちのライヒトも手も足も出なかったのだから。どんなに強い意志を持って修行すればあれほど強くなれるのだろうか。
8人ほどを始末してから共通点に気がついた。彼らは皆赤い逆三角形のブローチを付けている。
「つまりこの街にいる赤いブローチを付けている奴らを消したらいいのかな」
そう言って建物内のお掃除を終わらせた僕は質屋の窓から向かいの建物の屋根に飛び移り、夜の散歩を始めた。
屋根の上をぴょんぴょんと渡り歩く。退廃的なよどんだ空気の中をクルクル回りながら泳ぐように進む。楽しい散歩中に出会った屋根の上を走る魔王教の者達を蹂躙していく。血が屋根を染めているのをみて思う。これ、どうやって掃除したらいいのかなと。
私を始末するために魔王教の者達がわらわらと集まってくる。昔の情景がフラッシュバックする。
昔、僕がいた孤児院では甘いものが食べられることはめったになかった。だから、たまに一つだけ手に入る果物を奪い合って職員の周りに群がっていたものだ。
昔のことを思い出して思わず感傷的になってしまった。だけどそんなもので僕の足を止められると思うな。屋根の上の戦いが再び幕を開けた。軽さを利用してスピードと急ターンで相手を翻弄しながらすれ違いざまに確実に仕留めていく。悲鳴も僕を恐れる瞳もなれたものだ。
気がついたら屋根の上にいるのは僕だけになっていた。
「あは、あっはは あっけないね」
一晩でこんなに殺したのは初めてだ。でも罪悪感なんてない。あいつらに会ったことは何度かあるが例外なく狂人ばかりだ。大量殺人で流れる血と悲鳴を最上の食事だと思っているような輩。社会に絶望したという意味ではシャッテントゥルムの皆も変わらないが、こいつらはそれを受け入れて奪われるくらいならと絶望と悲鳴で世界を作り替えようとしている。魔王なんてあいつらは信じていやしない。魔王はちょうどいいから掲げているだけのただの旗だ。
僕は違う、か。端から見たら変わらないのにね。自嘲しちゃうよ。
さて、そろそろ帰ろうか。そしてヴァイスに服を買ってもらおう。
後書き失礼します。
主人公おかしすぎるからついついビーネとかの他者目線に頼っちゃう作者です。
今の時点での予定ですが、極力毎日16時に投稿しようと思っています。
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