32 セレナ、茶会に行く
セレナが社交デビューして、はや一季節が過ぎた頃、ナロウ公爵家に1通の招待状が届いた。
ええと、どれどれ、お茶会があるから来いということかな。それならそう書けばいいのに、貴族の修辞技法はやっかいだよ。
「ミルト、10日後にゾンマー候爵家でお茶会があるそうよ 準備を頼むわ」
「かしこまりました」
招待状が届いて10日後、セレナ馬車に揺られながらゾンマー侯爵家に向かっていた。
「ごきげんよう ゾンマー侯爵夫人 この度はお招きいただき、ありがとう存じます」
お茶会室に用意されていた席に着くと、周囲には、同じ年頃の令嬢が多いことに気がつく。高位貴族の交流会といったところだろうか。
「皆様おそろいですね それでは刺繍の会を始めましょう」
ゲッ、刺繍。刺繍は苦手なんだよねぇ。思わず出そうになったため息を押し殺して微笑む。
しばらく刺繍をしていたのだが、なかなかどうしてこれが難しい。同じ刃物でも、針と違って鎌は扱えるんだけどねぇ。
{それを同じにしてはいけないと思うけどねぇ}
しばらく、チクチク刺繍をしていたのだが、チクッと針を刺してしまった。
「「痛っ」」
えっ、同じような声が他からも聞こえてきた。思わずあたりを見回してしまう。声の主はすぐ隣の美少女だった。金髪のふわふわした髪に、明るいオレンジの瞳。明るい黄緑の茶会用のドレスががよく似合っている。可愛いよ~
そして、目が合った。ど、どうしようか~リアル美少女だよ。どうしよう、どうしよう。
{君、リアルに耐性がないんだねぇ…}
そ、そんなことないよ………
{嘘だねぇ キャワワな弱気美少女と化してるよ}
「あの、貴女も刺繍が苦手なのかしら」
話しかけられちゃったよ!!本当に、どうしようか。
{落ち着いていつものように振る舞えばいいだろう…はぁ、手がかかる}
「ええ、そうですわね 私も得意とはしておりませんね」
こ、答えられたよ~。セーフ。
「同じですわね(ニコッ)私、オランジェットと申しますの」
微笑んだ!今の見た!?微笑んだよ!あれ私が見ていいものだったのかな!?
{本当にリアル美少女への耐性がないねぇ 大丈夫かい?}
もう無理、コミュ障になりそう。キャワワだよ。
{内心大荒れだねぇ}
「私はセレナと申します よろしくお願いいたしますね」
それから、私とオランジェットはいろいろな話をした。共通点として、オランジェットも私も本が好きで、刺繍が苦手なことが分かったり、好きなお茶の銘柄が一緒だったことで、盛り上がったりして、楽しい時間はすぐに過ぎていった。
「オランジェット、また会いましょうね 今日はとても楽しかったわ」
「ええ、こちらこそ セレナと友達になれてよかったわ」
こうして私に呼び捨てで呼び合える、友人と呼べる存在ができたのだった。最高の一日だったねぇ^^
{多少はリアル美少女耐性が付いたようだね}
登場人物・語句の語源
ゾンマー 夏
オランジェット オレンジ