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21 閑話 酔狂な人

ビーネ視点です

 僕はビーネ、闇ギルド、シャッテントゥルムの幹部だ。僕がヴァイスと一生忘れられないであろう出会いを果たしたときのことを話そうと思う。


 何でもないある日の夜。僕は、ギルド長のライヒトに呼ばれて、会議室に行った。何でも、侵入者らしい。まあ侵入者くらいいつものように見張りがかたづけるだろうとそのときは思っていた。しかし、幹部のイーリスが血気盛んに撃退すると言って出て行ったので、僕はイーリスの出番が来るか、ライヒトと賭けをしていたのだ。


 そして、イーリスは死んだ。正直、うるさくて目立ちたがりのイーリスのことは好きではなかった。しかし、実力は確かだったのだ。そのことでやっと事態を把握した僕とライヒトは侵入者を迎え撃つことにした。そして僕は地下拠点の奥、会議室の前で侵入者を待ち伏せていた。

 

 唐突に扉が外から吹き飛ばされた。そして、僕は立ち上る砂埃の中に人影を見つけた。

「そこをどいてくれるかしら?」

そこにいたのが侵入者、すなわちヴァイスだった。黒髪は烏の濡れ羽のようで、青い瞳が宝石のようにきれいな華奢な美少女。それがヴァイスに対する僕の第一印象だった。

 「それは無理な相談だね 僕はここで侵入者を足止めをする任務がある」

 「そう 残念ね」

ヴァイスは本当に残念そうな顔をして、そこに佇んでいた。


 なぜか、余裕そうな態度に無性に腹が立ってしまった。

 「何をぼけっとしているのかな?なら、僕から行くよ」

僕から斬りかかる。いつもになく焦りを感じ、先手をとったのは、その時点で、ヴァイスの圧倒的な強さを感じていたからだと、後から気づいた。


 スピードを最大限出して、一気に距離を詰めても当たり前のように対応された。その後の剣戟も、終始防がれてしまう。

 「なかなかエスコートがうまいのね 感心したわ」

 「そんな余裕そうな顔で言われたら腹が立ってきたんだけど」

 「あら、それは失礼してしまったわ それじゃあテンポを上げましょうか」

テンポをあげる?僕にはこれが最大出力なのに?


 宣言通り、本当に剣戟が一段階早くなり、攻撃ではなく、防御で手一杯になる。勝てない。絶望が脳裏をかすめた。


 しばらく切り結んだ後に、ヴァイスが何か魔術を放った。

 「睡眠」(シュラーフェン)

僕は何をされたのかよく分からないまま意識を手放した。


 目が覚めたとき、まず見えたのはライヒトの顔だった。

 「目覚めたかっ!」

 「ライヒト?僕負けたんじゃあ…」


 ライヒトから衝撃的な説明を受けた。シャッテントゥルムが余人の支配下に入ったなんて信じられなかった。


 信じられないことは続いた。

 「私はヴァイス。これからよろしくお願いするわ」

 「僕はビーネ 13歳だ よろしく」

何をされるのだろうか警戒心が募っていく。

 「貴方は女性になりたいかしら?もし貴方がそれを望むなら望みを叶えましょう その代わり、私の手足として、働いてほしいのよ」

信じられるわけがなかった。

 「女の子になれるの?」

 「ええ、もちろん ただし対価は払ってもらうわ」

にわかに降ってきた幸運に頭がどうにかなってしまいそうだった。


 僕は生物学上は男として生まれたが、男は税が高いので生まれてすぐに捨てられたらしい。それから、僕は孤児院で女の子として育てられた。孤児院も決して豊かではないから、多くの男の子が女の子

として育てられていた。僕が3歳の頃、疫病がはやった。孤児院の子は30人ほどいたけれど、10人くらいに減ってしまったらしい。そして、僕が5歳の頃、孤児院がついに破産した。すみかを奪われ、必死で職を探した。その中で知った。僕は純然たる男の子たちとは違うし、女の子の仲間にもなれない。居場所がないと思い続け、女にうまれたら、と何度も思った。そして、流れ着いたシャッテントゥルムで、同じように複雑な事情を持つものたちと傷をなめ合うように過ごした。


 「あなたの言う通りに働けば、僕でも女の子になれるんだね? ならば逆らう理由はないと思う」

僕は女の子になりたい。偽らざる思いに背中を押されるようにそう口にしていた。

 「少し、時間をちょうだい 次会うときまでに準備を整えるわ」

 「分かった ありがとう ヴァイス様」

 「堅苦しくしないでいいからヴァイスで構わないわ」

 「了解 ヴァイス」

そうして、僕はヴァイスの直属の部下になった。といっても呼び出されない限り好きにしていていいらしい。


 こんな僕を拾ってくれるなんて、ヴァイスも酔狂な人だ。そう、ライヒトに言うと俺もそう思うと言われた。でも、酔狂だけど嫌いじゃない。新しい生活が始まった。

 


 

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