156 首、次も首
一つ目の首を執拗に狙いながらじわじわと相手を追い詰める。猛毒は噴射される度にブラックホールをぶっ放し、相殺どころか相手にダメージを与える。
「グラビティオペレーション 負荷20倍!」
一つ目の首がやっと落ちた。すると明らかに纏う雰囲気が変わる。
{これは完全に怒ったな……}
いいねぇ、ここからが本番だよ^^
「グラビティオペレーション 負荷30倍!」
ますます一撃が重くなった鎌を己の手足の如く操りダメージを入れながら、攻撃を躱す。突進してきたり、首を振り回して薙ぎ払いに来る。その動きは巨体に似合わずとんでもなく速い。
「グラビティオペレーション 負荷50倍!」
2つ目の首を落とした。一つだけ残った首を見据えて不敵に笑ってやれば、相手の動きは明らかに挑発されて冷静を欠きだした。
その隙に乗じてここぞとばかりに猛攻をかける。
ズドン、3つ目の首が落ち勝者が決まった。
{はい、次行くよ}
え?
{目の前から向かってきてるでしょ?オルトロス}
は?連続?
{だろうねぇ、回復の隙だなんてものは存在しないみたいだよ 多分ここから3連続だ}
鬼畜仕様だな、回復させろよ。まあ、回復が必要なほどダメージ受けないから大丈夫だけど。だって美少女だし。
{久々に聞く美少女構文}
さて、行こうか。オルトロス戦が始まった。黒い双頭の犬はせっかちなのかせわしなく動き回りながら攻撃を仕掛けてくる。それに対するこちらの攻撃はひたすらブラックホールを放つことだった。
「グラビティオペレーション 負荷10倍」
淡々と動く。前足をブラックホールが吹き飛ばし、鎌が首を切り落とす。
「グラビティオペレーション 負荷20倍」
再び威力を増した斬撃がオルトロスを襲い、首を吹き飛ばした。あふれ出す鮮血が廊下を汚し、強い血の匂いがくらくらと酔いそうなほどに満ちる。殺戮の残滓がそこかしこに漂うダンジョンの中でも酷く死の気配がする血だまりの中心に佇む少女。それは一枚の絵画のように完成された美しさを持っていた。
{鬱くしいねぇ^^}
さてと、自己陶酔もこの辺にしないとナルキッソスのように花になってしまっては適わない。何だったけ?ヒヤシンスになったんだよね?あの美少年。
{確かそうだったと思うよ まあ、一時的な植物人間化イベントで全方位曇らせイベントというのもあり寄りのあり}
いつかしようねぇ^^
{そうだね^^ SSR「深淵の眠り姫 ヴァイス」を実装しようか^^ イベントボスは「狂気の守り手 シュバルツ」で狂戦士形態の私というのは如何だろうか^^ ヴァイスの眠り姫的な痛々しさと傷付きながら戦う私の騎士的痛々しさの相乗効果で激鬱イベントに仕上がりそうなんだけど}
……君のソシャゲ愛についてはもう何も言うまい。
{ピックアップガチャは狂戦士形態中の双子形態で、SSSR「双つの月 シュバルツ&ヴァイス」で天井なしの課金イベにしよう せいぜい財布を空にしたまえ^^}
うわ、しかもこの運営、プレイヤーから絞れるだけ絞る気だ!
{夏は水着で絞り取り、秋はハロウィンの仮装で絞り取り、冬はクリスマスにバレンタインもあるからね^^ イベントピックアップであなたも廃課金プレイヤーへの一歩を踏み出そう!}
もはや隠す気さえ無い商売っ気。あれだろ?何回十連しても何時までも狙いのやつが来ない排出率がすっごく低いクソガチャにしてXに爆死報告が大量に来るやつだろ。
{まあ、古来より愛とガチャに天井はないって言うだろ? そう言うものさ^^}
愛と廃課金を並べるな。
そんな会話をしながらも体は敵の排除に動くのだから不思議なものだ。
口から火を吹く獅子型の魔物キマイラを相手にブラックホールと負荷倍増で対抗する。
決着は案外あっさりとしたものだ。全身がブラックホールに呑み込まれてキマイラは消えた。
その場から動くことさえ無く勝利した私はボス部屋の門を押し開けた。
最後の敵はヒュドラ。九つの頭を持ち、一つの頭を斬り落とすと傷口から二つの頭が再生する、驚異の再生能力を持つ魔物だ。更に中央にある頭は他の首よりも太く逞しい上に不死。体内には強力無比な猛毒を持ち、その毒に侵された者は全身を焼かれるような激しい苦痛の末に息絶えるとされる強敵だ。え?こんなのどうやって攻略しろと?
{こいつは傷口を火で焼けば再生できなくなるから、燃やせば良いよ^^ま、粗大ゴミは焼却が基本さ^^}
こ、こいつヒュドラを粗大ゴミ扱いし始めたぞ……
{だって、でかいだけで体積を取る蛇もどきなんて粗大ゴミも同然でしょ?}
同然?なのか?……か?
そして、私とヒュドラとの戦いが始まった。
{いっけぇ!焼却!焼却だぁ!!!}
何かヒュドラ絶対燃やすマンがいるんだが。
とりあえずグラビティオペレーションで斬りかかる。中央の首は避けていきなり3本まとめて斬撃をヒットさせる。
どうだ?
{うぅん、傷がうっすらついただけだねぇ}
鱗硬すぎだろ!まあ、ここまでは想定内だ。
{嘘つけ 思いっきり想定外だろ、意地はんな}
いやだって、謎の美少女に想定外なんて無いのに「想定外だよぉ><如何しよう!?」なんて出来ないじゃん!
内心のアタフタをおくびも出さずミステリアスな笑みを浮かべたまま戦いは続行される。
「グラビティオペレーション 負荷100倍」
いきなり切り札を切る。奥の手とまでは行かないもののなかなかの強力な手札である負荷100倍を序盤から使うことになるとは想定していなかった。鎌の細い断面に100倍になった重力が乗る。そして、切りつければ首を一つ落とすことが出来た。再生される前に焼く。火属性の魔術なんて何時ぶりに使うだろうかと思いながら断面を焼いた。
残りの首はあと8本。
{残機あと8個だねぇ}
スーパーマ○オみたいに言うんじゃねぇ。