154 至高の輝き
2号は悪魔公、最強の存在だった。だが、これはどういうことだろう。2号の攻撃は目の前の存在には遠く届かない。絶望しそうな心を必死に奮い立たせて2号は目の前の異質と対峙した。
敗北した。そして知った事実。2号はどうやら別世界の自分に召喚されたらしい。せいぜい強がって会話を続けるが内心ではこれまで敗北知らずの2号を下した相手に対する恐怖が占めてた。
{それは……美少女の輝きのおかげだな まあ、私だし好きにしても良いだろ ていっ!}
は?私だし好きにしても良いとは?そこで2号の意識は途切れた。
そうして始まったのはある物語。
ある天才学者が自らの野望と復讐のために悪魔を召喚する。はじめは人間に従うことに嫌悪を示していた悪魔だったが彼女のひたむきさと時折垣間見える闇に絆されていく。そして、明かされる彼女の野望。それは、幼き日に失った家族を蘇らせて、家族と街を蹂躙した竜に復讐を果たすことだった。
最後の戦いで彼女は戦い抜いた、そして、竜と相打ちになり悪魔を庇って致命傷を受けたのだ。最後に彼女が「貴方は生きて……私のことなんて忘れて幸せになって頂戴、ねぇ貴方が頷いてくれないと私は逝くことも出来ないの」と懇願混じりの別れを告げるシーンでは不覚にも泣きそうになった。
それもこれもシュバルツの演算機能を駆使した感情同調システムのおかげで情緒が普段よりも活性化?しているせいなのだが。
そして、始まったショートストーリー。2号の姿がカントリー調のエプロンドレスに変化、遠くに海の見える丘の上にいた。そこに、稚い白のワンピース姿の幼女が2号の足下へ駆け寄る。
「お姉ちゃん?一人?どうしたのー?」
幼女に話しかけられて動揺する。真逆自分も物語の中に入り込んでいるとは思わなかったからだ。直感が鋭く警報を鳴らすが何が危ないのか2号には理解できない。ただ、危険だと思う警報と、先程看取ったばかりの彼女の、幼いときの姿に心を揺さぶられていた。
「あ、ああ、大丈夫…だ…よ」
「ほんとー!じゃあ、いっしょにあそぼー かくれんぼしたいから、お姉ちゃんがおに!」
「分かったよ、遊ぼうか」
気が付けば2号はそう言っていた。
「きゃっ!お姉ちゃーんこっち!」
花冠を作ってくれた。一緒に走り回った。パンケーキを作ってあげた。一緒にお昼寝をした。
2号の中に思い出が積み重なる。ほんの一瞬のようにも永遠のようにも感じられる時の中で2号は幼女と常に一緒にいた。汚れの無い無垢な表情は2号の中にあったシュバルツへのわだかまりや行き場の無い悔しさや怒りを溶かし、代わりに慈愛の心を、幼き輝き、即ち幼女を愛でる心を育てた。
YESロリータNOタッチ。幼女とは愛で、崇め、讃えるべきものであり、彼女達に接すれば、邪な思いなど介在する余地がない。彼女達は繊細な砂糖菓子であり、どこまでも甘く美しい。その無邪気な信頼を裏切ることなど許されず、己の全ては幼女の笑顔のためにある。2号はそう信じ込んだ。いや、そうあるべきだと心が叫んでいた。
さらに、時折的確に脳内に流し込まれる美少女の知識。それを2号はくまなく受け止めた。そこには美少女がいた。シュバルツとヴァイス。二人の美少女は輝きを発していた。
「これが人の輝き、なのか……」
2号は完全に洗脳された。
「謎の美少女はロリコンを仲間にした!」
どこかで見たような文言がシュバルツとヴァイスの脳内をよぎった。