102 君のいない冬2
部屋の角にキラリと光る何かを捉えた。近付いてみると瞳ほどの大きさの透き通った宝石が落ちていた。
「鑑定」
どうやら掌の上の淡い月光を閉じ込めたような色合いをした宝石は封印の効果を持つようだ。
Doubt。天使たちは敵対する悪魔公たる私を再度封印するつもりだったようだ。
その目論見は失敗に終わったわけだが、私の行動を制限するという観点から見ると完全に失敗とは言えないだろう。現に私の寄生主であるセレナはたった今この瞬間も眠っている。双子形態で私は動けるとはいえ使える魔力はいつもの半分ほどと心許ない。
だが、魔力量で圧倒するヴァイスの戦闘スタイルは本来の私の戦闘スタイルとは少々異なる。私の戦闘スタイルは相手を罠にかけ、自滅へと追いやるもう少し意地の悪いものだ。魔力量に少々不安があってもさほど問題ではないな。状況を再確認して、私は天使の動向調査を再開した。
「貴様に渡す情報など無いッ!」
あ、自害した。帰るか。
私は天使が居そうな場所を手当たり次第に操作して記憶を読み取ろうと試みていた。そして、出会った天使を追い詰めすぎてうっかり自害させてしまったというわけだ。ふむ、私もなかなか動揺しているようだ。
とりあえずヴァイスが訪れたことのあるダンジョンは全て見に行った。天使が私の動向を探っているなら私が寄生したヴァイスが訪れた場所に調査に行くだろう。封印から目覚めたばかりの私の今の実力を確かめたい思惑もあるだろうし、そもそもあの封印は普通解けない。
そう、ヴァイスというイレギュラーが居なければ私はまだ封印されたままだっただろう。つくづくヴァイスには感謝だ。でも、本当にヴァイスは不可解だ。まず転生者という時点で理解の範囲を軽々と超えている。まあ、あの美少女至上主義は転生者というだけではない不可解さを孕んでいると思うが。分からない。でも面白いと思った。
いや、不可解なのは自分だ。何故、君の側に、中に居続けるのだろう。別に全盛期ほどではないものの、彼女に取り憑いていなくとも悪魔公として十分やっていけるだけの力は既に戻っている。
もちろん封印が解かれたばかりの頃は君に憑いていないと自己を維持するのがやっとというほどには弱ってはいた。君にはそんなこと言ってないが。まあ、下手にあまり知らない相手にそんな弱みは見せないものだ。私は人並みの警戒心くらい持ち合わせている。君とは違って。
だけど君は恐ろしいほどあっさりと私という異物を受け入れた。同居を許した。心まで許されたかといわれたら自信は持てないけど、ある程度心は開かれていると思う。
それに動揺した。動揺は全部覆い隠したー本気で動揺した姿なんて他人に見せられたものじゃなかったからーけど、君が私に隠し事をするのは気に入らない。
君が眠りにつく前、怒っていた。理由は分からなかったし、教えてと言っても教えてくれなかった。隠し事をされた。
その事実は思いのほか私を傷つけた。ねぇ、如何してそんなことするの?教えてよ。そうは言っても君はまだ眠り姫。答えを告げることは出来ない。
屋敷に戻り、君の姿を瞳に映す。高性能のこの耳は君の心音を拾う。それだけのことで安心する。
ああ、生きてる。
「君の目覚めを待ってるから、目覚めたら答えを教えてよ」
後書き失礼します。
常に眠たい作者です。
シュバルツはまだ自覚しない。そして、セレナはまだ目覚めない。