買い物―子供
三題噺もどき―よんひゃくごじゅうよん。
目の前のドアが開くと、ヒヤリとした風が熱のこもった体を冷やしていく。
あー涼し……。
心地のいい冷たさが、全身の熱を取っていく。
何のためにここに来たのかも一瞬頭の中から飛んでいく。
「……」
こんなに外が暑いとは思わなかった。
気温が高いとは聞いていたが、ここまでとは。
それに合わせた服装をしてきたつもりだったが、限界があったらしい。
「……」
あまり肌を出したくないので、半そでの上に羽織ってきたのがよくなかったのか……。
今度からは帽子でも被ってきた方がいいかもしれない。
こう暑いと、外出自体が嫌になりそうだけど。
それでも、外に出ないと、モノは減るし気分は滅入るし。
運動をしなさいとさんざん言われている身なので。
「……」
汗をかいていたせいで、少し寒すぎるほどに体が冷え切ったところで。
……さて、何を買いに来たんだったか。
今日は食料ではなく、そのほかの雑貨類がなくなってきたので、そのあたりのものを買いに来たのだ。
「……」
百円ショップ様々だ。
今は百円じゃないものも売ってはいるが。それはそれ。
質を上げたりなんだりしたらその値段になるだけだろう。
それでも他の類似品に比べたら安くですむんだから、ありがたいものだ。
「……」
とりあえず、筆記類をいくつか買いたい。
買い置きでもしておけばいんだろうけど、そうすると外出頻度がさらに減りそうなので、今はしていない。
以前は、しょっちゅう買い物に行けない生活をしていたので、買いだめしていたけれど。
「――っ!」
籠を手に持ち、足をそちらのコーナーへと向けた矢先。
小さな影が足元のあたりを駆け抜けた。私の腰あたりの高さの影。
つんのめりそうになりながら、きゅ―と勢いよく立ち止まったのが幸いしてか。
衝突はしなかった。
―が。
「……」
心臓は、バクバクである。
危ない危ない……子供を足に引っ掛けるところだった。
ついでにもう一つの影が横切り、何かのレースでも始まったんだろうかと思った。
元気よく走り回って……。
「……」
キャッキャと楽しそうに走ってるが。
はて……君たちの保護者は一体どこにいるのだろう。
まぁ、別にどうということもないが。
一応、この店には割れ物もあるので、少々危険な気がするが。
たいして広い店でもないので、怪我をするのは君らだ……。
「……」
しかし、時たまああいう風な子どもを見かけると、思うのだが。
子供の気まぐれに付き合っていると、こちらの骨が折れそうだ……。
あっちへこっちへと、引きずられてしまえば、疲労なんて想像がつかないほどに溜まりそうだ。その上仕事までしてたりするんだから……なんと……。
「……」
子供を見ると、可愛いなぁと思うが、育てられる自信は微塵もない。
自分がたいしていい育てられ方をしたともいえないのもあるが。
いやホント……絶対に無理だ。
「……」
そう考えると、あの妹はほんとによく親をやっているよなぁ……。
叔母の立場で見てしまうと、あの甥っ子は可愛いだけなんだが。
それだけではないんだろうし……きっと。
―おや。
「……」
つい先ほどの二人の子供が、何かをしでかしてしまったようだ。
何かを手に持っているあたり、壊してしまったのだろうか。
保護者がものすごい剣幕で何かを言っている。
「……」
どうやら、この買い物の後に、観覧車に乗りに行く予定だったらしい。
……この辺に観覧車なんてあっただろうか。あぁ、でも確か。この町のシンボルとして、新しく何かが建ったとは何かで聞いた気がする。それだろう。
「……」
しかし……観覧車がご褒美とは。
子供は純で可愛らしいなぁ。
もう、この年になると乗ろうとも思わないし、素直に楽しめるかどうか。
「……」
これで、あの二人も何かを学んだかもしれないし、そうでもないかもしれないし。
とりあえずは大人しくなったようなので。
さっさと私も買い物を済ませてしまおう。
お題:気まぐれ・観覧車・レース




