俺が同棲!?
朝日が差し込む部屋で体のだるさと戦っていた。
やはり昨日、濡れながら帰ったのがダメだったか…と1人で呟いた。
幸いにも、咳と鼻水が出る程度で熱は無かった。
学校に行くため玄関を出た。
俺の家から学校まで歩いて30分くらいで着くため、歩いて向かった。
学校に近づくにつれて人が多くなり、賑やかになってきた。
俺は1人で登校する事が多い。というか毎日1人だ。
教室に着くとすぐ窓際の1番後ろの自分の席に座る。
俺が席に座って少し経ったら優が必ず来る。そのまま優と話していた。
「おっす、樹」
優は俺の肩を叩いた。
「おう」
と俺は答えた。
これはいつもの事だ。
「なんだお前風邪ひいたのか?」
俺がマスクをして咳をしていると優が聞いてきた。
「移るからあまり近づくなよ」
俺は優に注意をした。
優はバカにしたように言ってきた。
「お前昨日の雨の中傘ささないで帰ったのか?」
俺は部活に入っていないが、優はバスケ部に入っているため、帰りは別だった。
「傘はさして帰ったんだ。途中でどこかに忘れてしまって。」
と俺は答えた。
結菜に貸したなど言ったら大変な事になるからだ。
「ま、無理はするなよ。最悪俺が見舞いに行くからよ」
「見舞いに来るなら可愛い子の方がいいな」
俺はふざけて言った。
「ま、そうだよな。」
優が珍しく素直だった。
ベルが鳴り全員が席に着いた。
朝よりも具合が悪くなっていた俺は、お昼で早退し、家で寝ていた。
「ピーンポーン」
インターホンの音で俺は目が覚めた。
優がほんとに見舞い来たのか…と考えながら画面を見て、驚きを隠せなかった。
そのまま俺は玄関に向かい、扉を開けた。
「どうしてここに?」
「昨日借りた傘返そうと思って田端くんの席見たら居なくて、優くんと仲良さそうに朝話してるの見たから、優くんに聞いたの」
彼女は笑いながら言った。
「あの野郎勝手に教えやがって」
俺は少し怒ったように言った。
「もしかして嫌だった?」
彼女は困ったような顔をした。
「嫌では無いよ」
俺は必死になって言った。
「なら良かった。もしかして、田端くんの家知ってるのって私と優くんと田端くんの親だけ?」
彼女は首を傾げながら聞いてきた。
「まぁ、そうなるな。ただ、俺の親は2人とも海外にいるから家には滅多に来ないんだ。」
俺は笑いながら言って、寂しい思いを誤魔化した。
「俺も熱あるし、移すと悪いから、傘はそこに置いといていいよ」
玄関の角を指さしながら言った。
「田端くんは何か食べた?」
俺が部屋に戻ろうとした時、彼女が聞いてきた。
「さっきまで寝てたから、何も食べてない 料理もしないから作ることもない」
普段の生活を聞かれているようで少し恥ずかしかった。
「私もあまり料理しないけどね」
共感したように彼女は言った。
ただ、あまりということは、しないという訳ではないような気がしたが、そのまま彼女は帰り、俺は何も言わず部屋に戻った。
次の日、俺は熱が下がらず学校を休んだ。
俺は優に「休むから伝えてくれ」とメッセージを送って、また寝た。
寝て少し経った頃、家のインターホンが鳴り俺は目が覚めた。
こんな時間に誰だろうと思いながら、起きて画面の所まで行った。
家の前にいたのは結菜だった。
俺はフラフラと歩き玄関を開けた。
「おはようございます。」
「お、おはよう。」
「学校に行ったら、田端くんは休みみたいだったから来ちゃいました。」
「なんで?授業はいいの?」
「先生に言ってきたから大丈夫ですよ」
「ならいいんだけど」
良くないとは思うが...
「上がってもいいですか?」
「ああ、良いよ」
「私は、何か食べる物を作りますね」
「ありがとう。俺はもう少し寝るよ」
会話が終わり俺は部屋に行き目を瞑った。
だが、女性を家に上げたのが初めてというのもあり、緊張して寝れなかった。
寝れずにいると、部屋をノックする音がした。
「お粥作ったので食べてくたさい」
「ありがとう」
「いただきます」
落ち着かない様子の彼女を横目に俺は1口食べた。
「うまい」
「美味しいよ」
俺は呟くように言い、次に彼女の目を見て言った。
ホッとしたようで、彼女の顔も笑顔になっていた。
「ごちそうさまでした」
「田端くんは美味しそうに食べるからなんだか嬉しくなりますね」
彼女はそう言って、食器を洗いに部屋を出て行った。
お粥を食べ終わり、お腹いっぱいになったからか寝てしまった。
目が覚めたのは夕方5時頃だった。
熱も下がり、水を取りに部屋を出たらリビングのソファーに彼女が寝ていた。
「えっ」
俺は驚いた反動でよろけてしまい、近くにあった物干しを倒してしまった。
その音でソファーで寝ていた彼女を起こしてしまった。
「ごめん。起こしちゃった」
「あっ、私こそ寝ちゃってた。」
「帰らなくていいのか?」
俺が聞くと彼女は黙ったままだった。
俺は水を取り、テーブルの椅子に座った。
「私、家に帰れないの。いや、帰りたくないって言う方が正しいかな」
沈黙の中で彼女が口を開いて言った。
「そうか…」
俺も理由を聞こうとはしなかったが彼女は続けて話した。
「実は、親と喧嘩して、1人で生活しろって言われたの。それでそのまま家を出て来たの。
私ね、妹が居るんだけど、妹の方が可愛がられてて私はどうでもよかったんだと思う。だから家出しても探しに来ないんだと思う。」
学校ではいつも明るい彼女のネガティブな所を見るのは複雑な気持ちになった。
彼女は自分のことを言い終わると荷物をまとめた。
「じゃ、私は帰るね」
「帰りたくないんだろ」
「ずっとホテルにいるの。でも、もうお金も無くなってきちゃって、今は公園にいる。」
この言葉を聞いて、「あの時!」と俺は思った。
「ここに帰ってきなよ」
俺はなぜこんなことを言ってしまったのか。だが、出来ることはそれくらいだった。
「迷惑になるからそれは出来ないよ」
「迷惑じゃない!今日も泊まっていいし、明日も明後日もここに来ていい!」
「でも、、、」
「他の家族のことに口出しはしない。でも、雨の中濡れたり、悲しそうな顔をしてる君を見るのは嫌だ!」
俺は強い口調で恥ずかしいことを言っていた。
我に返ったときには顔を真っ赤にしていた。
彼女は涙目だったが、俺の恥ずかしがっている顔を見て笑っていた。
「言葉に甘えてここに帰ってきますね」
彼女は笑顔で言い、家を出て行った。
あの笑顔は一生忘れることは無いだろう
俺は部屋に戻り、寝付けないから横になってスマホをいじっていた。
しばらくすると、家のインターホンが鳴った。
俺は部屋から出て、玄関を開けた。
「荷物まとめて来ちゃった」
彼女は可愛い笑顔で言った。
まとめてきた荷物を部屋に置いて、2人ともソファーでゆっくりしていた。
「ぐう〜」
隣に結菜が居て、俺は恥ずかしくなった。
「ご飯食べましょうか」
「そうしようか」
「今から作るのでちょっと待っててくださいね」
「何か手伝おうか?」
「田端くんはソファーで座っててください」
風邪を引いた時に料理をあまりしないと言っていたからかそう言われてしまった。
ソファーでスマホをいじりながらご飯が出来るのを待っていた。
「冷蔵庫勝手に開けてもいいですか?」
「いいけど、ほとんど入ってないかも」
結菜は冷蔵庫を開けると、銅像のように固まってしまった。
「結菜さん?」
俺が名前呼んでも反応しなかった。
しばらくすると、結菜は独り言のように小声で呟いた。
「人参、じゃがいも、豚肉、卵」
どうやら冷蔵庫の中にある物を呟いていたみたいだ。
「田端くん、カレールーってありますか?」
「カレールーは無い。」
カレーを作ろうとしていた結菜は笑顔が消え、絶望した表情をしていた。
俺の住んでいるアパートの近くには、運がいい事にスーパーとコンビニどちらもあった。
俺は提案した。
「今から俺がスーパーに買いに行くから、その間煮込んでおいて欲しい」
「でも、10分はかかりますよね?」
「自転車で行けば3分で着くよ」
俺はそう言って準備をして、家を出た。
自転車に跨り、俺は自分を責めた。
スーパーに着いて目的の物を探しに歩き回っていた。
普段スーパーに来ることがないからどこに商品があるか分からなかった。
やっと目的の物を見つけた時、後ろから声を掛けられた。
「あれ?いっくん?」
「ん?誰だ?」
「私だよ。綾だよ!」
「綾ちゃん!?」
声を掛けてきた彼女は幼馴染の紫宮綾だった。
綾ちゃんとは別の高校になって、会うことはなくなっていた。
久しぶりに会った綾ちゃんと話したい気持ちもあったが、今は家で待ってる人が居る。
「綾ちゃんと久しぶりに会ったから話したいけど、ちょっと今急いでるからまた後でゆっくり話そう」
「わかった…また後で連絡するね」
2人は会計を終え、スーパーを後にした。
自転車を全力でこいで家に着いた。
「ただいま 遅くなっちゃった」
「今出来た所なので、大丈夫ですよ」
結菜の笑顔にほっとした。
カレーが出来上がり、2人向かい合って食べていた。
お肉も柔らかく、野菜もちょうどいい固さに煮込んであってとても美味しいカレーだった。
「このカレーとても美味しいよ」
「喜んでいただけてとても嬉しいです」
カレーを食べ終わって、食器を洗うためにキッチンに向かった。
2人分の食器を洗っていると、結菜が隣に来て手伝おうとしたが、俺は止めた。
「ソファーでゆっくりしてていいよ」
「いや、でも全て任せるのは…」
「料理作ってもらったしこのくらいはさせてくれ」
「では、ゆっくりさせていただきますね」
結菜はソファーに行き、スマホを見ていた。
皿を洗い終わってスマホを取ると、優からメッセージが来ていた。
「体調は大丈夫か? 浅間さんが急にお前の所に行くって先生に言うからみんな驚いてたよ! 暇だったら電話くれよ!」
そのメッセージを見て、とりあえず電話をかけた。
「もしもし」
「お!樹元気か?」
「ああ、一応は元気だ」
「今日は樹と浅間さんの事でずっと盛り上がってたよ そのせいで俺にまで男どもが聞きに来やがったよ」
「優にも言ってないから聞いても何も言えなかっただろ」
「俺は浅間さんに家聞かれたから何となく察してはいたぞ まぁ、分からないっては言っといたけどな」
「ありがとな」
「ゆっくり休めよ」
電話を終え、俺もソファーに座った。
結菜は隣でスマホを見ていたままだった。
外は暗くなり、時計を見ると21時を指していた。
「お風呂どうする?」
「え?先入っていいですよ」
「それじゃ、先に入るよ」
俺は部屋に行き、お風呂の準備をしていた。
部屋をノックする音がした。
「はい?」
「あの、リビングにいても大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ」
「わかりました」
俺は部屋から出て、お風呂に向かった。
結菜はソファーに座っていたが、特にすることも無くスマホを見ていた。
「お風呂いいよ」
「わかりました」
結菜は部屋に向かった。
お風呂から上がった俺はソファーに座ってスマホゲームをしていた。
結菜がお風呂から上がるのを待って部屋に戻るかと思っていたら、ちょうどお風呂の扉が開いた。
「あ、上がりました」
少し恥ずかしそうに話す結菜の方を見た。
俺はあまりの可愛さに何も言えず、息を飲んだ。
「あ、俺はそろそろ寝るよ…」
可愛すぎだろと小声で呟いて、部屋に戻った。
「おやすみなさい」
「お、おやすみ」
こうして1日が終わった。