表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くちづけの花嫁  作者: しきみ彰
《上》
1/9

序章 双子の妹、夢を視る

 あふれんばかりに咲くむせ返るような藤の甘い香りを嗅いだとき、(ともえ)琴乃(ことの)は自分が夢を視ていることに気づいた。


 だってこれは、普段から彼女がよく視ている夢だからだ。

 ふわりと、柔らかな風に巻き上げられて黒髪が揺れる。


「ねえ」


 声に引かれて後ろを振り返れば、そこには見目麗しい人がいた。


 美しい銀色の長髪が風に流されて煌めき、柔らかく細められていた金色の瞳がこちらをじいっと見つめている。

 大輪の白彼岸花が浮かび上がる白い着流しに漆黒の羽織を肩にかけた姿は、それはそれは美しかった。

 そんな彼が片手に持った煙管から、ゆるゆると糸のような煙がたちのぼり、空へとゆっくり溶けていく。


 そんな現実離れした美しさから目が離せないでいると、彼がにこりと微笑んだ。


「僕の名前を呼んで?」

「……え?」


 彼が、琴乃に向かって手を伸ばす。彼が、光の粒となって消えていく。


「何かあれば、必ず守るから」

「あ、の……」

「だから」


 それらすべてが雪のように儚く溶けていく前に、彼の指先がかすかに琴乃の唇に触れ――彼女は確かに、彼の名を聞いた。


「僕の名前は、(さかえ)


 何かあったときはどうか、僕の名前を呼んで――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ