2曲目:なんて羞恥プレーなの
カラオケを歌っていたら異世界に来ていた。
な…何を言っているのかわからねーと思うが
おれも何をされたのかわからなかった…
(中略)
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
「なんじゃこりゃーーー!!!!!!!」
目の前には細い鉄のようなものがグサグサ刺さって血まみれの(多分)モンスター。
そして鎧を来た金髪イケメン。
よくみたら息が上がってるな…
倒れている男の人もいるし、息はあるな。
って、まだ向こうにいっぱいモンスターいるじゃん!!!
「聖女様お願いです。力を貸してください!!」
金髪イケメンが目の前まで駆け寄って跪く。
「聖女様って、私のこと!?」
自分を改めて見てみると、仕事着のグレーのパンツスーツに、マイクとマイクスタンドを持っている。
つまりカラオケに来た時のまんまの服装と、歌っているときのマイクだ。
ちなみにマイク&マイクスタンドは自分のものを持参している。
ワイヤレスで繋がるプロ仕様の本格派マイクとしてカラオケ用に販売してたものに、名前を刻印してもらったもの。
いつでも行けるように、仕事場にも置いてたんだよね。
「聖女様、お願いします!!」
ハッと我に帰り見てみると、
藁をも掴む表情でこちらを見ているイケメン。
向こうでも戦っているのが何組か見える。
「私、聖女では無いと思うんですが…
何をしたらイインデショウカ……」
なんだか場違いな格好にすごく恥ずかしくなってきた。
「感謝します!
見たところ、音魔法の使い手!!
音魔法で攻撃と支援をお願いします!!」
優雅な所作をしながら
そう言うと金髪イケメンは、
他の戦闘に寡占しにいってしまった。
え、置き去り!?
私、何すりゃいいの!?!?
考えろ……
私がするべきことは……
目の前には倒れたモンスター。
これはどうも私が倒したらしい。
細い鉄のようなものがグサグサ刺さっている。
そう言えば、さっき頭の中に何か聞こえたような…。
『来たれよ!!ハリガネ・ザ・ウォーズ!!』
そうだ!
ハリガネ…ハリガネ…あ!
HA・RI・GA・NE!?!?!?
これはさっき私がカラオケで歌ってた歌だ。
【世界はHA・RI・GA・NEで出来ている】という曲で、
独自の世界観が人気の【鋼鉄製のDESIRE】というデスバンドが歌っている大好きな曲だった。
これを歌ったから、
針金で敵を倒したの…!?
わからない。
でも、やるしかない。
私が持っているものは、
カラオケマイクとスタンド。
そして、カラオケが好きだと言う気持ちしかないんだから。
ふーっと息を吸い込んで、
歌い始める。
♪~~~
ふと芽生えたこの思い(feeling)
思い違いかもかの思い(sentiment)
だけど日に日に強くなってく思い(Emotion)
伝えたいんだ、この君への思い(Heart)~~~♪
私の周りに光の円ができる。
そこに次々と幾何学のような模様が光り、
場を包んでいく。
何何!?この光…
なんでスピーカーがないのに声響いてるの!?
戦っている人たちもモンスターも、
戦いの最中にもかかわらず、一斉にこちらを見ている。
は、恥ずかしいんだけど…
なんて羞恥プレー。
そもそも私、こんなにはしゃいで曲を歌うのは一人カラオケでだけで、みんなの前では歌わないタイプなんだけど…。
顔がカーッと熱くなって歌うのが恥ずかしくなってくる。
おおーっ!!
戦っている人達から歓声が。
「力が漲ってくる!!」
「傷が…治っていく!?」
「みんな!!まだまだ行けるぞ!!
聖女さまが私たちを導いてくれる。
一気にいくぞ!!!!」
ワーッと声があがり、
モンスターを倒すためにみんなで突撃していく。
「私が、みんなを助けているの…??」
よくわからないけど、
とりあえず歌うっきゃないみたい。
見知らぬ人だけど、みんなが助かるのなら、
恥ずかしい思いはとりあえず捨てて、
腹を括るしかないね。
もう一度ふーっと息を吸って、
歌い始めたのだった。
一人カラオケは闇深い(大好き)