結婚の儀
私の目の前にいる結婚相手が私の命を握りしめている。
「貴様は本当に癇に障る女だ」
「あの、それ返し・・・」
「ふん・・・では取ってこい」
私がそれを取ろうと前にでると、憎きアイツはあろうことか地上へとそれを落とすのだった。
「や、やめてぇぇぇぇえええええええ」
私の悲痛な叫びは雲に吸い込まれていく。
遡ること数時間前ー・・・
ここは雹蘭という雲の上に鬼たちが住まう国だ。木造の建物がそこら中に並び立ち、鬼たちは漢服を着て町を歩いている。
私はその国の一人、『白虎』という女鬼だが何と容姿がいいことや力が強いことで時期鬼の長となる『鬼鮫』と夫婦となることが決められてしまったのだ。
「絶対っっ嫌よ、あんな男の妻になるなんて!!」
今、鏡の前で不貞腐れている私は、結婚式に向けて侍従の音に準備をされている。
着々と進まる準備に今すぐ逃げ出したい気持ちを抑えながら目の前の自分を見つめる。
ハニーブロンドの長い髪に二つの角が頭部に生えており、鬼特有の赤く煌めいている瞳は少し釣り目で自分的にはきつい印象になるのが好きではない。
私の発言に音は眉を下げ困った顔になる。
「まあまあ、そんな事おっしゃらずに・・・」
「何であんな無口で愛想の悪い陰鬱な人の所に嫁がないといけないの!?私はもっと優しくて朗らかで超素敵な旦那様見つけるつもりだったのに!!どうしてよぉぉ」
鬼鮫とは、言うなれば幼馴染にあたる人物だ。アイツは昔からそうだ無口で何を考えているかわからない。けれど、私に対してもの凄く馬鹿を見つめる目で見てくることには気づいていた。
だからこそ私も気に入らなかったのだが、何の因果か結婚することになってしまった。
後ろから音が一個の箱を持ってくる。その箱の中身は察しがついていた。ぱかりと開かれるとそこには三つの真珠でできたネックレスだった。
「白虎様、あとはこの三珠をお付けになったら終わりでございます」
「・・・・・・それ、つけなきゃダメ?」
「はい、わかっているとは思いますが、これは結婚するにあたってなくてはならない仕来りです」
「・・・・・・分かったわ・・・」
諦めたようにため息をつき、三珠を受取り自身の首につける。
三珠とは鬼が18歳という年齢を迎えると体の中から現れる真珠の事だ。この真珠は自分の命と同等の物でこれが壊れること=死である。
それほど大切なものを何故身につけるかというと、この三珠は結婚相手と交換しなければならない習わしだからだ。お互いの命を責任もって守り合い裏切ることのないようにするためらしい。
これは絶対条件らしい。やっぱり鬼鮫と交換し合う未来が見えてこない・・・。と不安になっているが時間は刻々と近づいて来るのであった。
伝統の嫁衣装を着て広間まで歩いていく。すると広間の扉の前でアイツが待っていた。
「遅い」
「はあ!?あのね、女には男以上に用意するものがいーーっぱいあるの分かる!!??」
「ちっ・・・相変わらずうるさい奴だな」
「んなあっ!!」
「びゃ・・・白虎さまっお気を確かにっ」
怒りで目の前の男を殴りそうになるが音が小さい声で止めてくる声が聞こえ何とか気を落ち着かせる。
「おい行くぞ」
「ちょ、待っ」
私を置いてさっさとスタスタ広間へ歩いていく。私は追い付くように急ぎ足で追いつく。
周りをチラリと見渡すと、身分の高い鬼達が私たちを挟むように並んで座っている。そこには私の父親も座っていた。
父親は今回の結婚を進めた人物でもある。このことについて親子喧嘩したため顔を合わせるのは久しぶりだ。するとばちりと父親と目が合う。私は恨みで人を殺せそうなほどの睨みを向けると、にへらと笑って両手を合わせて小さくごめんのポーズをしてきた。それで許されると思うのか?とイライラしながらも
中央の奥にある二つの席に鬼鮫と隣同士で座る。
「それでは今から鬼鮫様と白虎様の結婚の儀を行っていく」
と開始の声が広間に響き渡る。つまらない儀の内容を右から左へと流しながら今後の自分を憂うことしかできない。
いつの間にか儀も終わりに近づいてきた。意識が飛んでた・・・。
「それでは三珠の交換は空の間で行いますのでお二人とも移動を」
空の間は部屋の中ではあるが下が雲となっている。代々ここで三珠を交換する。
「それでは、三珠の交換を・・・」
ああ、ついに来てしまったわ。本当に三珠を交換したらもうもとには戻れない。白虎、いいの!?この陰鬱なこいつと一生添い遂げなければならないのよ・・・!?と心が訴えてくる。
結婚生活を想像をしてみると鳥肌が止まらない。目の前には私の三珠を取ろうとしている鬼鮫がスローモーッションで見える。
「やっぱりそんなのいやあああああ!!!!」
「あ・・・?」
私は叫んで止めるが時すでに遅し。三珠は鬼鮫の手に渡っていた。周りの鬼たちはざわざわと騒ぎ出す。
「鬼鮫それ返して!私はあんたとは結婚できない無理!あんたも嫌でしょ!?私と結婚するの!」
「・・・」
鬼鮫は私の言葉を聞いて不機嫌そうな顔をしている。私が三珠を取り返そうとするがうまくよけられてしまう。そして距離を取られてしまった。
「貴様は本当に癇に障る女だ」
「あの、それ返し・・・」
「ふん・・・」
鬼鮫は足で雲を蹴ると穴が開き風が入り込むちらりと下を見ると遠く小さく地上が見える。
「あの、まさか・・・」
「では取ってこい」
「や、やめてぇぇぇぇえええええええ」
そして今に至る―・・・