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皆さんは夢仮説というものをご存じだろうか。それっていうのは率直に言うのであれば現実が実は夢なのではないかという考えのことだ。こんなことを突然言われたって皆さんには身もふたもない話だから分かりづらいだろう。じゃあ例えば夢っていうのはどういうものだろう。あなたの好きな、嫌いな、あるいはどうでもいい人が登場して、何かをする。怪獣が俄然現れて町を破壊する。いつの間にか空高くにいて空を飛んでいる。……などといろいろあげることができるだろう。そこで諸君にはこう気づいてもらいたい。現実と夢の違いは何だろうか。これは夢だと知っている?夢の中はカオスである?現実感がない?それらは全部夢から「醒めた」後に知るのではないか。つまり、我々はまだこの現実に思われる「夢」から覚めていないだけではないか。夢仮説というのは大体そんな話だ。では、もし今の現実が夢だったら……とても恐ろしく感じるがそれをぐっとこらえてそう考えてみると……外の世界はどうなっているのだろう。或いは前世なんてものが外の世界かもしれない。
ふと、目が覚めた。そこは病室だった。やれやれ、また佐々川さんたちとはしゃぎすぎてここに送られちまいましたか。俺は嘆息すると医師を呼ぼうとベルを探す。すると、そこには見慣れないものがあった。どういうことだ。なんでこんなものがあるんだ。ああ確かに見覚えはある。だが、俺の世界にはあっちゃダメなもののはずだ。
俺の隣にはさも当然のように電子機器があった。
俺はいったん深呼吸した。
肺が空気に満たされていくのを感じる。包帯のにおいが鼻を衝く。なおも電子音は一定の間隔で鳴り続ける。
いや、まさか。
俺はある方向へと傾き始めた頭を振ってもう一度思考を振り出しに戻す。
ああそうだ。そうに違いない。俺が眠っている間に技術が進歩したんだ。
俺の心の中のざわめきを振り払うと、もう一度深呼吸をし、平静を取り戻した。
よし、とりあえず医師を呼ぼう。
俺はベルを押した。
医師が大慌てで来た。額には脂汗がにじんでいる。その医師は、今まで俺が怪我をしたときに担当してくれたスレンダーな医師とは違ってふくよかで優しそうな人だった。俺は開口一番にこう聞いた。
担当が変わったんですか。
「た、担当ですか?い、いえ、最初から私ですが」
……
事実をまざまざと見せつけられた俺は閉口せざるを得なかった。
「そ、それよりも!お体は大丈夫ですか!?今ご家族はお呼びしましたので!」
ああ、つまり俺は、――
「あ、あの!痛いところとかは――」
俺、マイケル・フィッシャーは、いや、――は、
「聞いてますか!」
現実世界に戻ってきたのだった。
皆さんの期待に沿えない展開になってしまって僕としても心苦しいです。ですが僕はこれが書きたかった。本当に申し訳ございません。




