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登校中。
朝の陽に照らされた、あの雪だるまは張り付いた笑みを浮かべていた。どんぐりの眼はどこか虚ろである。ああ、お前は佐々川さんを見習った方がいい。あの爛々と輝く目は見るものをして宝石を思わせ、抵抗し難い同調圧力を生み出すのだから。或いはそれは厚かましいという。まあ、佐々川さんは純真無垢だからそれでも許してしまうだろう。少なくとも俺はそうだ。ただ、キーナーの野心が宿る眼はマネしない方がいい。なぜなら、確かにその烈しさから同調圧力を生み出すが、それは守りたいという阿重霞な理由ではなく、背後にこぶしをちらつかされた実力行使でしかないからだ。キーナーは暴君と呼ぶのにふさわしい。
帰宅時。
俺は女子二人を先に帰して、公園のベンチ、かの雪だるまの隣に座っていた。
で、どうだ。現実味を帯びてきたか。
「いやぁ、現実だとは思いたくないね、美女二人を侍らせてキャッキャウフフとしている糞野郎がいる世界なんて」
侍らせてなどない。ただの友達だ。
「本当に?」
……それ以上揶揄うと壊すぞ。
「あはは!勘弁勘弁!」
……まあ、早めになれた方がいいだろうな。俺なんてのはここで最初に食べた魚の煮つけでここを現実と決めた。本当にここのご飯はおいしいからな。
「そう。じゃあ僕にも食べさせてよ」
どうやれと。
「手で僕の口まで持ってってよ。或いは口移しでもいいよ」
ふざけんな。俺はこの世界に来て一度もキスをしたことがないんだ。たかが雪だるま、しかもこんなにうざい雪だるまにファーストキスを奪われてたまるか。
「あはは!僕だって君みたいな顔はいいけど卑屈な人になんかキスされたくないよ。それだったら――」
……それだったら?
「……いいや、なんでもない」
……そうか。で、お前はどうするんだ。
「どうするって?」
このままだと何にもできないだろう。
「いいや、やることはいっぱいあるよ」
例えば?
「美少女を侍らせている人を観察したり、羨んだり、呪ったり――」
それはやることとは言わない。というかやめてくれ。俺だって好きでこんな状況に陥っているわけじゃないんだ。
「あはは!さすがハーレム系主人公!言うことが違う!」
……お前、しばくぞ。
「はは!ああ怖い怖い」
……で、本当にどうするんだ。
「優しいねぇ。ねぇ、名前はなんていうの?」
あー、マイケルだ。マイケル・フィッシャー。
「そうじゃなくって現実の名前だよ」
現実の名前?そんなこと知ったって意味ないだろ。まあ、確か――
「――君だね。わかったよ。じゃあ――君。いや、この世界ではマイケル君と呼んだ方がいいかな?僕をどこかへ連れて行ってよ」
……さすがにこの巨体を運ぶのは億劫だから目だけでもいいか?というか、お前の眼は取り外し可能なのか?
「さぁ、やってみないとわからない」
……はぁ、よし、じゃあとるぞ。
「……痛い痛い痛い!」
大丈夫か!
「……アハハ!嘘だよ。何にも感じない」
……お前、本当に覚えておけよ。
「いやー、実は僕記憶力に問題があって――」
嘘つけ。勉強がものすごいできると言っていたじゃないか。
「アハハ!そっか!……ありがとうね」
……ああいいさ。これくらいの面倒ごと、慣れてる。
「……ふーん」
……で、このどんぐりから何か見えるか?
「うん!もうばっちりだよ!むかつくほどかっこいい顔がくっきりと見えるね!」
よーし異常ありだな。このどんぐりは粉にひいてしまおう。
「やめてよ!ちょっと褒めてみただけじゃん!」
お世辞にも限度がある。
「うわー、ひっくつー」
雪だるま君かわいいなぁ。




