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目を開けると、佐々川さんが膝枕をしてくれていた。
「大丈夫ですか?マイケル君」
「ふん!心配させないでよね!」
何か長い夢を見ていた気がする俺の脳はいまだ覚醒していなかった。ただ、佐々川さんには何か感謝をしなくちゃいけない気がしたのでありがとう、とつぶやいた。
で、ここはどこだ。
「ここは地下です。湖沼の中にあった階段を下りたらここについたじゃないですか」
佐々川さんが答える。
そう言われると確かにそんな気がする。
「入ったらあんたが急に倒れて心配した――心配なんかしてないんだからね!」
なんだキーナー。お前の性格は寒帯気候の一種なのか。
「確かにマイケルさんが起き上がったのも重要でしょう。しかし、僕たちにはどうやらそれ以外に懸念すべきことがあるようですよ」
そういうハリスの視線の先には二人の幼女がいた。
「みっなさ~ん!こんにちは!」
茶髪を後ろでまとめた幼女が快活に述べる。
「こ、こんにちは~」
黒髪をおさげにした幼女がおっかなびっくりにあいさつする。
なんだお前ら、知り合いか?
「いいえ、マイケルさんが起き上がったら急に現れました」
ハリスの眼は幼女を注意深くとらえる。
「私たちは幽霊、ううん、そんな生易しいもんじゃない。この世界の意思によって生まれた魂だよ!」
この世界の意思?よくわからんな。
「ほら、よくあるじゃない。お主は選ばれたとか、信託を授けようとか」
ああ、いろいろな話にはよくあるな。だが、あくまでお話だろ?
「ううん、お話だけじゃないよ。いや、もしかしたらお話だけなのかもしれない。だけどね、それはつまり生きた人間が登場人物のお話なのかもしれないっていうことなんだ」
生きた人間?つまり、俺たちが物語の登場人物とでも言いたいのか。
「うーん、場合によってはそうかもね。でも、ことはそう簡単じゃないんだよ。これはお話、そう、奥様方が夫の愚痴を井戸端会議で喧伝するような、そんなお話なんだよ。物語って言うとあれでしょ?すべてが虚構で――」
「つまり、外界があると」
ハリスが横やりを入れた。
「うーん、大体そんな感じ」
「じゃあ我々はこの世界の生き物で、外から観察されていると」
「うーん、ちょっと違うかな。君たちは、そう、まさに特別な存在なんだよ。ほかの人ならあるいは彼女の無意識が体現するものなのかもしれない。だけどね、君たちは、どっちの世界にもいるんだよ。いや、彼女に巻き込まれたというべきかな」
「彼女とは?」
「ん?ううん、それを答えるのは私たちじゃないよ。それに世界の意思はそれを望んじゃいない。むしろ、こうやって世界を危うくするのも望んじゃいないんだよ。だって彼女はこの世界の中にいたいから。ただ、彼女は優しい、それだけが私たちを生んだ理由だよ」
よくわからないな。
それからも俺たちはいろいろな質問をしたのだが、はっきり言って要領を得なかったので割愛する。明日の学校に備えて帰ろうと出口に足を向ける。すると、黒髪の幼女が俺のところにトテトテ駆け寄ってきて、こう耳打ちした。
「お前の記憶にあったSFラブコメ、あの憂鬱のやつ、すごい面白かった。彼女もあるいは――」
そこからの声は小さすぎて聞こえなかった。やれやれ、幽霊ってのは人の記憶を勝手に盗み見ることに躊躇はないんですかね。だとしたら大した度胸だ。今度はエロ方面の記憶を見せてやろうではないか。
あー、59書き忘れた。まあいいか。




