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「で、どうするわけ?私としては水には潜りたくないのだけれど」
そりゃそうだ。なんたってこの池は昼間には青々とした水面を太陽に輝かせているのだから。
「うーん、どうしましょう」
佐々川さんが頭を抱え込む。ああ、あれなんだな。小動物をいじめる人の気持ちは、前世ではついぞわからなかったが今ならわかる気がする。俺も佐々川さんにさらに哲学的に悩ましい問題などを吹き込んで頭をパンクさせてやりたいと思ってしまった。まあ、そんなことは置いておいて。ここは諦めるしかないのではないだろうか。俺はそういった意味も込めてハリスに目配せする。するとハリスは俺のアンニュイな視線に下卑た笑みを返すと、こういった。
「では、水をなくしてしまうのはどうでしょうか」
いやいやハリスさんや。それはさすがに学校側も黙っちゃいないだろ。
「マイケルさんは教師におけるマイケルさんの影響力を知ったほうがいい。実は結構尊敬されているんですよ。もちろん、我々も」
いや、だからと言って――
刹那、俺の眼を佐々川さんの潤んだ瞳がとらえた。
くっ、これが小悪魔とかいうやつか。
およそ用法が違う言葉を想起した俺の口は言葉を失っていた。
「肯定ということでいいですか?」
ハリスの意地悪い笑みが先を促す。謀ったな。ああ、俺の心の中の諸葛孔明よ。DJブースをいっぱいにする試みはいいからパリピ孔明から普通の孔明に戻ってくれ。
俺はふてぶてしくうなずいた。
須く照らす太陽よ!須く燃やす極炎よ!今ここに現出したまえ!その火は混淆をも焼き尽くし、その光は歴史の先駆者となるだろう!穿て!<インフェルノ・サン>!
豪火が湖沼を穿つ。あたりには圧倒的熱量の水蒸気が立ち上り、昼間とみまちごうほどの光量が発生する。そして再びあたりが暗闇に包まれると、そこには剝き出しの地表があった。
これでいいか。
俺は後ろを振り向く。
ハリスは、らしくない、口をあんぐり開けていた。ああ、権謀術数に囚われたお前には十分な仕打ちだ。俺は心の中でそうつぶやくと、湖跡に踏み出した。
Ich komme aus Japan. Wo wohnen Sie?




