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コツ、……コツ、……と靴音が響く。あたりは暗闇で魔法の光が頼りだ。俺の右腕には佐々川さんが、左腕にはキーナーが縋り付いている。正直言って暑苦しい。いや、オブラートに包んでも暑苦しい。
「ちょ、ちょっとあんた、もう少しゆっくり歩きなさいよ」
震えた声でキーナーが苦情を洩らす。
なんだ、怖いのか。
「そ、そんなわけないじゃない」
じゃあなんで俺にべっとりなんだ。
「それは、……あれよ。あんたがはぐれないようにだわ」
俺がはぐれないように?お前がはぐれないようにだろう。
「それ以上言ったら殴るわよ」
へいへい。
「このトイレですか?」
先頭であたりを魔法で照らすジョン・ハリスが尋ねる。その先には古びたトイレがあった。
ああ、ここだな。
「そ、そうです」
消え入りそうな声で佐々川さんが肯う。
よし、じゃあ後は二人で頑張れ。
「え?ど、どういうことですか?」
佐々川さんは目を点にして聞き返す。
いや、俺たちは男だろ?女子トイレには入れないってこった。
「な、何言ってんのよ。この学校に不法侵入した時点で罪は罪なの。いまさらそんなこといったって――」
なんだ、怖いのか。
「こ、怖くなんかないわよ」
だったら二人で入れるだろう。
「あ、当たり前じゃない。い、行くわよ。佐々川さん」
「え!?本当に行くんですか?」
「そ、そうよ」
「ええ、でも……」
二人はお互いに抱き着きながら中に入っていった。
なおもキーナーと佐々川さんは俺の腕に巻き付いている。たぶん前世が蛇かなんかで巻き付いていないと落ち着かないのだろう。ああ、そういえば、前世を何世代にもわたって思い出すことができる人も昔にはいたな、と思い返してみる。その人の学派は数学者として有名な道を辿り、ついにはその人の名前があの、有名な定理になったということもあったわけだ。だから佐々川さん、あんたも前世がそのように痛切に感じられるってのはいいことかもしれない。キーナーは、まあ、今の状況を鑑みてノトーリアスになるだろうな。まあそんなことはさておき、トイレの花男さんは現れなかった。俺としてはあそこまで神経が衰弱したキーナーを久しぶりに見たため追い打ちをかけてくれてもよかったのだが、まあいいだろう。そしてそのあとも転々と七不思議を巡ったわけだが、何も起こらなかった。そりゃそうだ。幽霊などいないのだから。まあ、つまりこれで最後、池の中の階段という面白みのかけらもない話で佐々川観光は終わるのだ。
「話に基づくと……この池ですね」
「そう」
池の中の階段というあまりにも面白みのない会談、いや、話はキーナーをして平生に戻らせた。なんだ、俺としてはもっと周章狼狽といった感じになってくれてもよかったのだが。目の前には月を照らす静かな湖沼があった。
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