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彼、ジョン・ハリスは孤独である。友達など一人もおらず、休み時間に話すような相手もいない。たまに話しかけてくるのは顔目当ての獣だけだ。しかし、それがどうしたというのだろうか。彼には目的がある。父親の治療、果てには家族の円満だ。その目的を持つ彼を、いったいどうして毀貶できようか。俺には少なくともできないし、それはキーナー、佐々川さんにとっても同じことだろう。俺は彼に話しかけてみた。安い同情だって?それでも行動しないよりはましさ。
「ハハハ!マイケル君は面白いことを言うね!」
どこがだ。いいか?パンは小麦粉からできているんだぞ?ということはパンから小麦粉が作れなくちゃおかしいじゃないか。
「いやいや!パンの工程は不可逆的なんだよ!それは人間の進歩だって同じじゃないか!」
……確かに。
「アハハ!それはあれかい?ジョークというやつかい?」
……あ、ああ、そ、そうだ。
「ハハ!その反応、もしや本気で言っていたな?」
ま、まさか。
「ちょっとやめてあげなさい。それ以上マイケルをいじめないで頂戴」
今回は珍しくキーナーが俺をかばう。
「今でさえ折れ曲がった枝がさらに折れ曲がっちゃうわ」
おい、俺はまっすぐに伸びているぞ。
「アハハ!まっすぐと言っても360度まがってまっすぐに伸びてそうだね!」
余計な付け足しをすんな。
俺は佐々川さんに助けを求めて目配せする。しかし、佐々川さんはぽかんとしていた。
下校中、キーナー、佐々川さん、ハリスと並んで歩いていると、いきなりハリスが渋面になった。
おい、どうした。
「ん?ああ、ちょっとね」
その視線の先には一人の神父がいた。
もしかして。
「ああそうだよ。彼が母親から金を巻き上げた人だ」
なるほど。追うか。
「いいのかい?」
なに、心配すんな。隠密行動なら慣れている。
「いや、そういうことじゃなく――」
動いたぞ。キーナーは佐々川さんと帰ってくれ。
「はぁ、わかったわ。無茶しないでね」
わかった。
「はぁ、本当にわかっているのかしら」
しばらく尾行すると、一件の豪勢な城についた。その神父は中に入っていく。
「ここかな」
そうみたいだな。
「ありがとうマイケル君。これでいつでも復讐できるよ」
いいやまだだ。
「……というと?」
今、復讐するぞ。
「……でも準備してきてないし」
いや、大丈夫だ。こんな時のために目出し帽を持ってきておいた。
「……アハハ!本当だ!」
それに地図だが、俺には中に入れば自動マッピングしてくれる魔法がある。
「……ということはマイケル君も一緒にやってくれるのかい?」
当たり前だろ。
「……そうか、優しいね。ありがとう。本当は一人の友として君は危険にさらしたくないけれど、もうマイケル君は決心したんだよね。何も言わないよ」
……そうか。助かる。警備が手薄になったぞ。今だ。
「うん」
巡回の後ろを足音を立てないようについていく。そして広い城をしばらく歩くうちに、マッピングで示された金庫の位置についた。
ここだ。入るぞ。
「わかった」
そこに入ると目の前にでかでかと金庫があった。その金庫に触れてみる。
これは……少し厄介だな。ハリス、少し周りを見張っておいてくれ。
「わかった」
そして俺は警備が回ってきたら隠れ、いないときは金庫にへばりつきを繰り返した。そしてついにレバーが回る。金庫を開けると、突然、サイレンが鳴りだした。
なあハリス。このサイレンって何だと思う。
「多分、僕たちのせいだよね」
よし、逃げるぞ!
「わかった!」
つかめるだけつかんだ俺たちは一目散に逃げだした。
そして走っていると、道中、あの神父が慌てた様子で目の前に躍り出た。
「な、何者だ!」
目出し帽越しにハリスのにやついた顔を感じた刹那、ハリスはこんなことを始めた。
「我々は正義の泥棒、ジャスティス・バーグラー!お前の悪事はお見通しだ!」
ハリスは俺に目配せする。つまりそれは何か言えってことですかね。
勧善懲悪の頂点に立つ我々に不可能などない!食らえ!スリープ!
神父は糸が切れたかのように倒れた。
「アハハハハ!最高だよマイケル君!」
追ってくる警備から逃げながらハリスはそんなことを言う。
はぁ、ああいうのは俺の性に合わないんだ。
「いいや、全然似合っていたよ!」
そうか?
逃げ出して追っ手をまいた後、俺たちは立ち並ぶ民家の屋根で夜空を見上げていた。
「……400万、500万、合計500万か」
半分にしてもこの大金とは、あいつやっぱり相当設けていたんだな。
「そうみたいだね」
そういえばと俺はハリスが必要な金額を思い出す。確か1000万だったはずだ。そうなると足りないわけか。いや、俺のがあれば――
ああ、これはお前にあげよう。
「いやいいよ。それはマイケル君へのお礼なんだから」
……そうか。
「そうだよ」
……じゃあ、こうしよう。俺とお前はまだ友達じゃない。
「……そうだよね。こんな性根の腐った奴なんか――」
だから、これはお前の友達の枠に入るための一種の入会費だ。ほら、受け取れ。
俺は袋を投げ渡す。じゃりっという音を立ててハリスの手に渡った。
これで俺とお前は友達だな。
「……ありがとう。そんなマイケル君には特別プライスでもう一つ上の位を上げるよ」
となると……俺とお前は恋人か?気持ち悪い。俺にそんな趣味などないぞ。
「アハハ!僕は一向にかまわないけれどね!」
まだジョン・ハリスの話は続きます。まあ後日談ですが。




