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俺たちは彼、ジョン・ハリスの邪魔をしていた。ツボを売ろうとした人にこれは詐欺だというわけだ。これによって被害はだいぶ減っただろう。素晴らしいことではないか。俺とキーナーは勝利の味を分かち合った。ついでに佐々川さんにもそのことを言ったのだが、彼女は逆に頬を膨らませていた。なんでも佐々川さんに秘密でこの作戦を実施していたのが気に食わないらしい。いやいや佐々川さん、たぶんあんたが参加すると犠牲者が一人から二人に増えてしまうでしょう。え?私も参加する?いやいや御冗談を。
彼、ジョン・ハリスは、憎らしいが優秀である。口はうまいしフットワークは軽やかだし人前では臆しないし、さらには、これはあいつがさわやかな笑顔で自慢してきたことだが頭脳明晰ときた。まあ俺には及ばないが、という自慢を立ててみようと思ったがあいつは授業を聞いただけ、ノートも取らずにただボケーっと聞いているだけで学年で20位以内(この学校は一学年で500人ぐらいいる)であるわけだから、一心不乱にノートをとって学年一位の俺の存在を十分に脅かしているといっても過言ではない。まことに憎たらしいが。まあ、天才ってのは夭折するのが常であるってのが常識だし、それに賭けてみよう。或いは俺が夭折させてあげてもよいのかもしれない。
「いやはや、やっぱり君たちはすごいんだね。もう、お客さんが激減だよ」
そいつはよかった。
「そろそろ観念したらどうなの」
「いいや観念なんかしないさ。僕にだって目的はあるんだ。それの達成まではね」
続けると。
「まあね」
「へぇ、それだったら先生に報告するけど?証拠なら十分集まったし、報告すればすぐあなたは退学よ」
「そういって君たちは報告しないんだろう?優しいからね。大体、そろそろ気付いているんだろう?僕がなぜこんなことをやっているのか」
俺たちは黙り込んだ。いや、黙らざるを得なかった。最初はなぜこんなことをやっているのだろうという、純粋な疑問から、そう、モルモットを観察するかのように泳がしておいたのだ。俺たちは。しかし、ことはそんなに簡単ではなかった。
「……だんまりかい。まあいいさ。これは僕じゃない、他人の話だと思ってくれればいい」
そう、彼にはこんな秘密があった。彼、ジョン・ハリスの父親は熱心な神父だった。ジョン・ハリスが生まれているということは当然奥さんもいるわけで、家族三人は幸せに暮らしていた。しかし、彼、ジョン・ハリスが小さいころ、父親が病に罹った。病院に行ったが治らず、帰ってきたのは不治の病という文言だけだった。父親は神に祈った。私は今までこれこれこういうことをしてきました。孤児を救済しました。貧乏人にパンを分け与えました。神にお祈りすることを忘れたのは一度たりともありません。どうか敬虔な私をお救いください、と。しかし、それも病が悪化するにつれできなくなった。そこで、宗教にはあまり詳しくないジョン・ハリスのお母さんが祈ることにした。それがだめだった。とある悪徳の神父にそれを相談してしまったのだ。すると、母親はまんまと騙され一家の少なくない財産をつぎ込むようになってしまった。当然、そんなことをしても父親が治るはずがない。だから母親は沼に引き込まれるように散財するようになったのだ。日に日にやつれていく母親を見てジョン・ハリスは何を思っただろうか。俺には全くわからない。目の前で話しているジョン・ハリスはこう言った。僕はその時こう思ったんだ。騙されるほうが悪いってね。つまり、母親が悪いんだと。だから僕はだれにも騙されないように必死に勉強した。ありがたいことに僕の地頭はいいらしくてね、この高校に合格できたよ。そして色々調べていくうちにとある人に行き着いた。僕の父親の病気を治してくれる人だ。しかし、その手術費が高額でね、そこで思いついたわけだ。そうだ。僕も人をだましてやろうと。
「確かに僕の性根は腐っているさ。こんな話をして君たちから同情してほしいと思ってしまっている。だけどね、どうか僕を恨まないでやってほしい。うんと小さいときは君たちと変わらない、無垢な男の子だったんだからね」
微笑みを見せた彼の眼の奥には悲哀が見え隠れした。
長く書いてしまって申し訳ない。今後の展開に期待してください。




