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「以上で挨拶を終わらせていただきます」
しかつめらしい挨拶を、真面目くさったメガネの少年が口述する。
俺のところにも入学式の挨拶のお願いがきたが、面倒ごとはこの上なく嫌いなので峻拒したね。
しかし、こんな定型文の挨拶もどうかとは思う。
ここは曲がりなりにもトップクラスの高校であるわけだから、それなりの諧謔やら機知やらがあってもいいではないか。
まあ、面倒事を回避できただけでも良いとしよう。
クラスに入った。
当然だろう。
入学式の後にはクラス分けがあるのだから。
しかし、周りはみんなメガネくんではないか。
男子もメガネ。
女子もメガネ。
おしゃれのへったくれもない。
ここの生徒手帳にはどこぞの高慢な武士よろしく「眼鏡にあらずんば、人にあらず」とでも書いてあるのか。
まあ、壮観ではある。
その凄みのある景色を眺め見ていると、一筋、キラキラとした場所があった。
ああ、これが竹取翁が垣間見た光というものか。
確かに不思議だ。
なぜあそこだけキラキラしているのだろう。
怪しがりて寄りて見るに、そこにはメガネではない少女がいた。
見覚えのある少女が。
俺が変質者から助けた少女が。
俺の熱視線に気付いたらしい彼女は、俺の方に顔を向けると、ハッとしたような表情になり、俄に席から立ち上がると、俺の所へきた。
「あの!先程はありがとうございました!」
いえいえ、そんな大層なことではありませんよ。
「いえ!ですが!、、、お礼をさせてください!」
礼には及びません。
「ですが!、、、、、、いえ、ここは矢張りあなた様のお顔を立てて不躾な真似は控えます」
ほう、思ったより気が利くんですね。俺はてっきり頭の足りない猪突猛進型だと思っていましたよ。
「ですからお名前だけでも」
ああ、名前ですか?マイケル・フィッシャーです。
「マイケル・・・・・・マイケル・ジャクソンさんですね!」
POW!
いやいやそうじゃなくて。
マイケル・"フィッシャー"です。
「ああ!失礼しました!マイケル・フィッシャーさんですね!覚えました!」
そう言うと彼女はスタスタと自分の席に帰って行った。
・・・・・・やっぱり頭はダメだったかもしれない。
敬語で話させると初対面時の人格と乖離が起きることは知っていました。しかし、この主人公には矢張りこのような話し方が似合うためこちらにさせていただきました。いわゆる刹那主義ってやつです。