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俺の右隣にいる幼女、トレイシーちゃんは雑談を振ると「ふん!」といかにも子供らしい拗ねたような態度を示した。そしてその後に「惚れてなんかやらないんだからな」と、これまたわけわかめなことを呟くと、小石につまづいて転び、今度は泣くのを我慢している幼女みたいな顔になった。やれやれトレイシーちゃん、つまづいたのはあんたの前方不注意のせいなんだから不倶戴天の敵を睨むみたいに俺のことを睨まれても困りますぜ。どれ、ここはいっちょ俺の子供耐性を試す意味も込めてあやしてみようではないか。ほれほれトレイシーちゃん、痛くない、痛くないよー。
「私を子供扱いするな!」
リンダ・ジョンソンは生徒会長と俺の合戦を見ては目を輝かせていた。一体何が面白いというのだ。確かにリンダさん、あんたには加虐趣味ってのがありそうだが、今の今まででトレイシーちゃんが涙目になったのはトレイシーちゃんの自業自得だぞ。そしてトレイシーちゃんはその後に決まってこう呟くんだ。「惚れてなんかやらない」と。俺としてはそれだけでわけわかめなのに、リンダさんが目を輝かしているのもそこに加わってくるわけだから、心情としては大学で門外漢の分野の、しかもハイレベルな講義を受けさせられているみたいだ。まあ、そんなリンダさんだが、これだけは感謝しなければならない。高級な馬車を用意してくれてありがとう。これで俺の酔いは云々。
プールに来た、いや、リンダ・ジョンソンに無理やり連れてこられたわけだが、そこにはすでに先客がいた。トレイシーちゃんだ。髪は一つにまとめられていて、水着は、紺色で肌の露出が少ない、ええと、これはなんていうんだっけ?ああ、そうだ、スクール水着というやつだ。トレイシーちゃんはその格好が大層恥ずかしいらしい、さっきからモジモジしている。
「な、なあリンダよ。わ、私のこの格好は普通なんだろうな」
「ええもちろん。ばっちりです」
「ほ、本当か?なんか先程からみんなの目線が痛いのだが」
「それはみなさんがトレイシーちゃん、こほんこほん、トレイシー様に見惚れているからです」
「そ、そうか!な、なんだ!そういうわけだったのだな!はーはっはー!大衆よ!私の姿に瞠目せよ!」
ああ、かわいそうなトレイシーちゃん。また騙されていやがる。トレイシーちゃん、その姿は異様中の異様ですよ。しかし、そんなことを口に出しても今の驕り高ぶったトレイシーちゃんには馬耳東風だから心の中にしまっておいた。
今日は精神科に行きました。統合失調症ってやつです。まあ、軽度なんですけどね。




