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久々に対面した二人にはあいさつなどなかった。あるのは一緒に居ることへの苦痛のみだ。さっきから真正面で腕を組んでいるキーナーは目を合わせようとしない。しかもどこかやつれている。
「ええっと、それじゃあ、どこから話そうか」
俺たちを呼びつけた西蔭智春が、静寂に耐え切れずそんなことを聞く。
話す、とは。
「ほら、私たちの関係を」
私たち?というと……ああ、やめてくれ。そもそもの目的を忘れたか?
キーナーは、らしくない、下唇を噛んで俺たちの会話を聞いている。
「いいや、マイケル君。だから私が前に言ったようにそんな計画、はなから成り立ちえなかったんだよ」
それは、あれか?キーナーが俺のことを――
「そうだよ」
いや、それなら前も言ったが前提が――
「とりあえずマイケル君は黙っておいて」
あ、ああ。
西蔭智春はキーナーのほうを向く。
「キーナーさん。セーラ・キーナーさん。私たちの関係は、実は嘘なんだよ」
「……そんなわけ――」
「ううん、本当だよ。それもこれも、マイケル君がキーナーさんを見返すためにしたことなんだよ」
「……本当?」
「うん」
「私を貶めようとしているわけではなく?」
「そんなに心配なら、マイケル君に聞いてみてよ」
「マイケル、本当?」
……ああ、残念ながらな。まあつまり俺には――
「なんでそんなことしたのよ!」
――彼女など作る……なんでかだと?そんなの当り前じゃないか。お前が俺を馬鹿にするから――
「してない!あんたに彼女ができたとき私がどんなに悲しんだかわかってる!?あんたがこの子と帰っているところを目撃した時なんて夜通し泣いて!それでも嘘だと思って佐々川さんに聞いて!本当だったから今度は眠れなくなって!どうして!どうして!――」
無視するお前だって悪いだろ!それで俺がどれだけ傷ついたか!西蔭にだって迷惑をかけたんだぞ!現に今!――
「そっちが先なんだからそっちが悪いでしょ!」
彼女ができたくらいで話さなくなるほうが!――
「はいはい!二人とも落ち着いて!」
西蔭智春が声を張る。
キーナーはバツが悪そうな顔をしながら口を噤む。
「こういう時はおあいこだよ。ほら、二人とも、それぞれ謝って」
……
「……」
……すまんな。少し言い過ぎた。
「……私だってごめんなさい。身勝手が過ぎたわ」
あたりには静寂が訪れ、柔らかい風が頬を撫でる。
「私も、ごめんなさい。ついマイケル君の彼女になれるからってこの状況を利用しちゃって」
西蔭智春が、俄然、謝意を述べた。
「……ううん、私のほうこそごめんなさい。この愚直なマイケルを煽っちゃったもの」
おい、形容詞に悪意があるぞ。
「悪意なんかないわ。事実を述べたまでよ」
よく言う。いいか?愚直ってのはな――
「ああはいはい、あんたのうんちくなんてどうでもいいから」
……そういう人の話を聞かないところが頑迷固陋なんだろうな。
「はぁ?あんたよりかは柔軟なんですけど」
いいや嘘だね。だってお前はボードゲームをすると決まって定石しか打たないじゃないか。
「……そ、そういうあんたこそ、奇抜な手を打ってはすぐに負けるじゃない」
ほー、言うなぁ。だったら今度――
「プッ、アハハ、二人はいつもそんな感じなんだね」
西蔭智春が噴き出す。
「そ、そうよ。悪い?」
西蔭からも何か言ってくれ。キーナーは俺の言葉を聞き入れようとしないんだ。
「うんうん、いや、そのままがいいと思うよ。二人は」
おい西蔭。それはどういう意味だ。
「ううん、何でもない」
西蔭智春の八重歯が光った。
「ごめんねキーナーさん。私――」
「私のライバルがいつまでもそんなにへこたれていちゃつまらないわ」
「……へ?」
「そんなんじゃ、マイケルは私のものね」
「……ううん、負けないよ!」
俺が二人を置いて帰ろうとした時、後ろで何やら話し声が聞こえた。しかし、俺が呼び止められていない以上他愛のない雑談だったのだろうと思う。
佐々木さんじゃなくって佐々川さんね。失敗した。




