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日はすっかり落ちて辺りは暗闇と静寂が支配している。俺の隣にいる人物の表情、機微などは全て暗闇に吸い込まれ、静寂のうちに消える。彼女の香水の甘い匂いが俺の鼻を刺激し、気分を高揚させる。未だに先の告白のシーン、いや、厳密に言えば俺たちは好きあってなどいないから告白などではないのだが、しかし、側から見れば十分な告白だったあのシーンを思い出すと、喜びからか、若しくは緊迫感からか手の震える覚えがする。二人の間にはなおも静寂が横たわる。それが、殊に彼女がなぜそうなのかは皆目見当がつかない。しかし、どこか甘酸っぱいその静寂は、俄然、幕を閉じた。
「ま、マイケル?その隣の人は誰?」
街灯によって照らされた俺たちに暗闇から呼びかけたのは、少女の声だった。しかし、その少女はいつもの傲然とした態度が鳴りを潜め、その声は震えている。そう、その少女とはキーナー、セーラ・キーナーだったのだ。
ん?ああ、"彼女"だが。
「ば、バカおっしゃい。あんたに彼女なんてーーハッ!まさか、あんた女性の指示名詞のことを言っているんではないでしょうね」
まさか。正真正銘の彼女さ。なあ、西蔭。
「う、うん!」
「・・・・・・う、嘘おっしゃい。そ、そんなこと言ったって信じないんだから!」
心なしかキーナーの顔色が悪くなったように見える。
まあ、嘘じゃないから。行くぞ、西蔭。
「う、うん!」
俺たちは歩き出した。
「・・・・・・バカ!」
後ろからキーナーの罵声が聞こえた。




