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ありきたりな転生物語をもう一度!  作者: ありきたりな人間
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俺と付き合ってくれなどという青春めいた甘酸っぱいせりふを吐いたのは、意外にも俺の口だっ

た。そしてその言葉は空気を大層甘酸っぱく震わし、目の前の人へと届いた。或いは虚空に霧散

したのなら諸君の羨望のまなざしってのを受けずに済んだのだろうが、あいにく、今回の俺には

その言葉を聞き届ける、いや、偶発的な出来事であるのだから聞き届けてしまったというべきだ

ろうか、そんな相手がいた。そいつは、その少女は健康的に日焼けした四肢を体操着から覗かせ、

ボーイッシュに切りそろえられた黒髪に口にはチャームポイントともいうべき八重歯を光らせ

ている容貌をしていて、或いはこいつがラヴに目覚めたのであればだれもが二度見するような美

少女になるのかもしれないポテンシャルがあるような人だった。まあ最後のは完全に俺の憶測で

しかないが。目の前の少女、そう、西蔭智春は動揺している様子だった。目は俺を射止めること

ができず安住の地を探して彷徨い、頬は幾分上気し、手は虚空をせわしなく動いている。そりゃ

そうだ。こんな、平凡で何もない俺に告白されるなど一顧だにしなかっただろうからな。しかし

俺もこれほどの動揺を生み出すとは想定外だった。何せなぜそんな思考回路に至ったのかという

理由も言ったわけだからだ。思考回路、というのは諸君はご存じかもしれないが、俺がキーナー

に彼女がいないことを馬鹿にされたことに起因する。そこで俺は仕方なく、そう、悔しいのでは

なく完全に仕方なく、俺にも彼女がいる、あるいは作れる能力があることを示すことにしたのだ。

それでもこの動揺というわけだからよほど予想外の出来事だったのだろう。或いはものすごく嫌

で断る言葉を探しているのかもしれない。俺としては断ってほしくないのだが。なぜかって?そ

りゃあ、頼れる奴がこいつをのぞいたら佐々木さんくらいしかいないからだ。しかし佐々木さん

が、例えば万が一にでも彼女になったとして、じゃあなぜキーナーとも今まで一緒にいたのかと

いう問題も浮上する。キーナーに頼るのは本末転倒であるし、さらにあいつは、もし頼ったとし

ても傲然と馬鹿にしてくるに違いない。飛んで火にいる夏の虫とはまさにそのことだろう。しか

し、一向に西蔭智春が思考の深海から戻ってこない。そこで俺はこう付け足した。

「何なら三か月、いや、一か月でも構わない」

「い!いや!き、期限はいいんだ!むしろ設けないでくれ!」

なるほど、一か月でもしんどいということか。少しは会話をして、仲は良いと思ったが、それも

自惚れだったらしい。

「そっか、ごめんな。俺も性急になりすぎた。この話は忘れてくれ」

「え!ええ!いや!ちょっと――」

たぶん彼女のその言葉を聞き届けても、彼女なりの優しさからくる慰めしかないのだろう。それ

は自分がむなしくなるだけだ。だから俺は出口へ向かう。空を見るとすっかりオレンジ色で、飛

ぶ鳥が影を落としている。屋上の澄んだ空気に胸がすく思いだ。

「受ける!受けるぞ!その話!」

刹那、俺の耳を驚天動地の言葉がさした。……今、俺は何を聞いた。俺は立ち止まる。

「マイケル君の彼女になる!期限なんていらない!」

……ほ、本当か。

俺は体を喜びで震わしながら振り向く。

「あ、ああ!」

西蔭智春は満面の笑みでうなずく。

俺は西蔭智春に駆け寄ると、うれしさのあまり抱擁した。

西蔭智春は一瞬驚いたような表情をしたが、俺に体を預けた。

こいつ、傍若無人のような振る舞いをするくせして香水なんてつけてたんだな。

俺はありがとう、ありがとうとつぶやいた。

瞬間、俺は自信が勢い余って抱擁してしまったことを改悛し、すぐに西蔭智春から離れる。

す、すまん。勢い余って――

「ううん、大丈夫」

西蔭智春はまたもや満面の笑みを見せるとこう宣った。

「むしろやり捨てされる覚悟までできてる」

空気が凍ったような気がした。

抽選で当たった感想からやる気が出たので再開しました。

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