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『なんてことない、寂れた商店街を闊歩しているときに、僕はふと、こう思った。
僕の魂は普遍ではない。
物的存在は須く普遍ではない。
でも、幸せはどうだろうか。
外国語にも『幸せ』とされるものはあるし、普遍的ではないだろうか。
じゃあ、何で世界中の人たちはその幸せを共有できないのだろう。
何故、戦争は無くならないのだろう。
それは人間が他人の幸せを恨むからだ。
他人の幸せより自分の幸せを祈るからだ。
そんなことに気づいた僕は、人間を作り賜し神が何だが恐ろしくなった。・・・・・・』
図書委員会の仕事として、文芸集を出版することが挙げられる。
先の話は俺の物語の初めの部分である。
第一人称が僕なんてのは、全く、俺の好みでこうすることによって頭が良く見えるからだ。
まあ、俺の第一人称は「俺」なのだが。
しかし、いいではないか。
俺としては上出来だと思っている。
それとなく佐々木さんの方を見てみる。
『これは少し昔の話なんですが、とある山奥にお爺さんとお婆さんがいました。
その二人は若い頃に駆け落ちしたのですが、その時に家財の一切合切を持っていかなかったので、大層貧乏に暮らしていました。
しかし二人はいつも笑い合って暮らしていまた。
若い頃の熱が冷めたなんてことは一切ありません。
それを快く思った神様が、二人のもとに訪れて金銀財宝をたくさん置いていきました。・・・・・・」
大層可愛らしい物語を描いているんだな。
佐々木さんらしい。
まあ、そんな童話は置いといて、何故俺たちが書くことになったかというと、これは運である。
くじ引きで赤々とした割り箸を引いた俺と佐々木さんはあれよあれよと周りに流され、執筆をすることになった。
しかし、あれだな。
図書委員会のこういう出版物ってのは酔狂なやつしか読まないからそこが少し残念だ。
そんなことを思いつつ窓の外を見ると、夕焼けの空がどこまでも橙に輝いていて、黒々とした烏が帰巣本能に従い阿呆みたいに喚き散らしながら遥か高い頭上で羽を目一杯働かせていた。
そうか、もうこんな時間か。
そろそろ帰るぞ。
うーんうーんと頭を悩ましている佐々木さんにそう呼びかける。
呼びかけられた佐々木さんは輝かしい笑みで答えると、帰る準備を始めた。
本当にすごい人ってのはこの夕焼けの空みたいに、何にも流されずにただ静観している人を指すのだろう。
俺はふとそう思った。




