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人生のリスタートを謳ったビジネス書を見て偏屈にもそんなことができたら苦労しないということを思ってしまう賢しい俺は、神様なんていう超越的存在などてんで信じていなかった。
今思えばアメリカの典型的な家族だって敬虔なクリスチャンかと聞かれれば首を傾げざるを得ないわけで、実際に神を信じている人々は、これは全く俺の偏見だが上位1%にも満たないだろう。
中には悪魔を信仰する宗教もあるらしい。
まあ、その気持ちはわからんでもない。
神様にいくら願っても無駄なら、まだ存在証明が簡単そうな悪魔を信仰しようということだろう。
悪魔なんていうのは後悔に後付けできるからな。
しかし、なんとつまらない人生だったことか!
俺はその賢しさを誰にも認められることなく、トラックに轢かれて死んでしまったのだから。
次に目が覚めたのは見知らぬ部屋だった。
当然、そんなところにほっぽり出された俺は動揺で変な汗をかいたし、部屋を歩き回っては隅に挟まり、これは俺の知らない走馬灯の一部なんだと思ったりもした。
ああ、死にゆく定めの人々に駆け巡るお馬さんも、その膨大な量の仕事に痺れを切らして俺の脳に駆け込み寺よろしく休息しにきたのだろう。
しかし、こんなに長く休んでもらっては困る。
そこで、これを終わらせようと俺は建てつけの良い扉に手をかけるわけだ。
そしてスリー、トゥー、ワン、ファイヤとどこぞの軍隊よろしく一斉射撃の真似事をしながら戸を開けるとーーそこにはどこまでも続く廊下があった。
「転生」ーー俺の頭にこの単語が浮かんだ。
これはどこぞのライトノベル、スライムがなんやかんやするっていう画期的なお話、そう、あくまでも虚構、物語であるのだが、そんなものから仕入れた単語だ。
その時は他人事だったから俺の脳内はいいマグロが競に出された築地市場並みに賑わっていたのだが、これが俺に起こるとなると話は別である。
こんなことされても困っちゃいますよ。お神さん。
と、井戸端会議よろしくなんの意味もない言葉を呟くと俺はその廊下を裸足で、ムーンウォークのムーンじゃない方でヒタヒタと歩き始める。
廊下に敷かれた絨毯の繊維が足をくすぐり、ああ、これは現実なんだと否が応でも意識させられた俺は、好奇心に駆られて一歩前に踏み出た。
さあ、これが、これこそが、前世はうだつの上がらない人間だった俺の、ありきたりな物語である。
カキ、、、、、、タメ?