008 森の魔女、発言して叱られる
「私が黒の軍師ですか」
「そうだ、君が黒の軍師になる」
「私は何をすれば良いのでしょうか?」
「まあ、いるだけで良い。君に作戦を立てろとは言わない。ただ、謎の天才軍師殿が提案したというだけで我々の作戦計画が通りやすくなる」
「先の戦いで我が軍が壊滅しなかったのは黒の軍師殿の提案した作戦のお陰だ。誰も反対出来ない」
「私はこのローブを着て、会議にいるだけで良いのですね」
「そうだ」
ヤバい、私って会議になると猛烈な眠気がおそってくる体質なんだけど、断れない。
「わかりました。黒の軍師役をいたします。ただ、会議の予定ですとかどうやって私に知らせるのでしょうか。」
「騎士団から出される発注書の納品日が会議日になる。基本的に毎週水曜日だが、君は発注書に記載された日にだけ来れば良い。この部屋に入ったらローブを被って魔法軍の控え室に来て来れば良い」
「承知しました」
「もう一度言うが、我々以外の者との会話は禁止する」
「はい、決して話しません」
「魔法軍の控え室に案内する」
私は真っ黒なローブを着た。騎士団長、副団長、私、私の後ろにジルベスタ様の順番で長い廊下を歩いている。すれ違う騎士がギョッとしているのを感じる。
◇
「ここが、魔法軍の控え室だ」
控え室というより、質素ではあるが安くない彫像とか剣とか、あれはドラゴンの頭だろうか? 凄い威圧感の部屋に通された。ここに一時間もいたらそれだけで疲れそうだ。あっお手洗いはどうしよう。ここには女性用のお手洗いは絶対にないもの。困った。
騎士が控え室に入って来た。
「作戦会議の時間になりました。皆さまお越しください」
えっ、さっそく会議ですか? 自己紹介とかはどうするの? 私は困惑しながら控え室を出た。
◇
「今日は黒の軍師殿も同席される。馬鹿にされるようなことは控えるようにな」とワルド様が司会進行をしてくれている。私はただ頭を下げただけだった。会議後、頭を下げる必要はないとワルド副団長から怒られた。
私は置き物としてそこにいるだけで良いらしい。かなり辛い。眠い。
「ドンゴンバルトの後方を撹乱作戦における拠点が、次々と潰されている。協力者の逮捕が相次いで動けなくなっている。次の作戦を実施すべきだと思う」と一人の騎士が立ち上がって話している。
皆さん、頷いている。
「次の作戦はドンゴンバルト領を空襲する。ドンゴンバルトには飛竜がほとんどいない。それでだ。ドンゴンバルトが開発したあの炸裂弾を飛竜から落とす」
どうしてそんなことをするの。ドンゴンバルトの人がエルトリアの人を憎むだけだよ。
「前回の戦闘では騎士一万人が死傷した。その従卒を合わせると三万人が戦闘不能だ。今、ドンゴンバルトに本格的に攻められると王国は滅びる!」
いやいや、空襲なんてしたら、本気でエルトリアが攻められる。これは止めないとダメだ。
男の声でないと、止められない。私はこっそり変声の薬を飲んだ。
「ドンゴンバルト軍団が国境線を超えた時、反撃としての空爆は良い。しかし、それ以外の空襲はドンゴンバルトの本格的侵攻を早めるだけで、却下だ!」
会議は私の発言で凍りついた。ワルド副団長閣下は天を仰いでいる。ジルベスタ様は含み笑いをしている。騎士団長の顔は見えなかった。
「黒の軍師殿の提案である。再度作戦を練り直すように」と騎士団長が発言するとワルド副団長が「本日の会議はこれで終了する」
私たちが会議室を出たら、椅子を蹴倒す音とかテーブルを叩く音が鳴り響いた。怒り狂っている騎士さんがたくさんいるみたいだ。
◇
魔法軍控え室に戻って来た。
「黒の軍師殿、発言は控えてもらいたい。軍師殿が発言するとそれが結論になる」
「すみません。空襲なんかしたらそれこそドンゴンバルトは本気でエルトリアを攻めると思ったので」
「我々もそう思っている。しかし彼らは友人、親、兄弟を失っている。何とかしてその仇を討ちたいのだ」
「君が言った内容は騎士団長が言うはずだった」
「はあ、台本があったのですね」
「その通り。副団長のワルドは復讐に燃えてる連中の味方で、騎士団長と私は軍の改革を優先して出来るだけ戦わない穏健派という役割が振ってある」
「そうだったんですか……、ごめんなさい」
「黒の軍師殿、そう言うことなので、発言はしないこと。良いですね」
「はい、ごめんなさい」
「ワルド副団長、まあ、早く会議が終わったのは良かったのではないですか」と爽やかにジルベスタ様が言ってくれた。フォローありがとうございます。
「まあな、椅子とテーブルがだいぶ壊れたみたいだがな」とワルド副団長は苦い顔をしていた。騎士団長は下を向いて笑っていた。




