007 森の魔女、黒の軍師にされる
「ジルがね、ドンゴンバルトの後方の撹乱作戦を提案した時は反対の嵐だったの。そしたら、ジルがねドンゴンバルトの戦い方は異常であると、ドンゴンバルトの戦い方を研究していた黒の軍師殿の案で、王都で騒乱を起こせば、国王も王都に兵を置く、王国内の大きな街を襲えば、国王は軍を王国内の警備に当てざる得ないって強硬に主張して、父上に認めさせたの。素晴らしかったわ!」
「今は飛竜で、ドンゴンバルトの砲兵隊と歩兵部隊の上空からドンゴンバルトの様な炸裂する爆弾を落とせないか研究中なのよ。これも黒の軍師殿の提案なのよね」
「私ね、その黒の軍師殿に会ってみたいの! フェルドン、エルザ知らない?」
「ジルがね、その知謀に心酔しているのよ」
「姫様、お父上が認めません。とくに軍事に関することは」
「フェルドンだけね。今も姫様って自然に呼んでくれるのわ。嬉しい」
「でもね、私はお飾りだけどこの国の女王なの、知っておきたいのよ」
「アンリエッタ女王陛下、フェルドン薬物研究所には軍師はいないと思います」
「そうかしら、フェルドンの研究所には最新の知識がありそう。私、フェルドンの研究所を訪問するから、予定を組んでおいてね。お願いね。フェルドン」
「はっ、陛下の御心のままに」
◇
お茶会が終わった。フェルドン先生も私もグッタリしている。
「ドンゴンバルトだけではなくアンリエッタにも目を付けられた。エルザ、慎重に行動する様にな。とくにジルベスタ関係は気を付けること」
「了解です。所長」
「アンリエッタ女王陛下の訪問の準備ですが……」
「エルザ、今私は何も考えたくない気分だ」
「ありがとうございます。私もです」
◇
なのに、研究所にさっそくジルベスタ様が来てしまった。ジルベスタ様には間違いなくアンリエッタ女王陛下から付けられた諜報員がどこかにいる。
「エルザ、コーヒーを淹れてもらえないだろうか?」
「はい、喜んで」この会話もすぐにアンリエッタ女王の元に行くのだろう。私は命の危機を感じる。こんなに早く生命の危険に晒す恋に落ちるとはお姉さん、考えてはいなかった。
「エルザ、これを」
「はい」と言ってなんかハンドベルに似たようなもの持たされた。
「私たちの会話は常に盗聴されている。これはそれを当たり障りのない会話に変える魔道具だ。私が作った」
「ジルベスタ様もご存知でしたか?」
「アンリエッタ様に気に入られているのは嬉しいのだが、プライベートがなくなるので困っている。アンリエッタ様はすでに女王陛下で、私は一介の騎士でしかない。遠い存在になったはずが前より監視の目が厳しくなった」
「エルザ、今度駐屯地に来て転移陣をそこに設置してほしい」
「転移陣を設置するのですね、了解です」
ハンドベルをテーブルに置くように言われ置いた。ジルベスタ様がすぐさま回収し、「コーヒーは癖になるなあ」と言うと颯爽と研究所から出って行った。
◇
疲れた。フェルドン先生が「私にもコーヒーを淹れてほしい。エルザ、すまない」
「ええ、私も今とても飲みたい気分ですから」私たちは二人してため息をつきながらコーヒーを飲んでいる。
「フェルドン研究所なのだが、一時閉めようかと思っている。通いの職員については前国王陛下にお願いして安全な場所にドンゴンバルトの諜報部門が潰せるまで、避難させて頂こうと思っている」
「研究所の機能は住み込みの職員で最低限維持する。エルザはペニシリンの製造に集中する様に、ただ騎士団の駐屯地に来いということは、エルザに何か騎士団も任務をさせるつもりだ。大変だと思うがよろしく頼む」
「はい、私、そういうのに慣れてますから大丈夫です」
「そうか……」
私としてはジルベスタ様の近くに行けるのが素直に嬉しい。ただ、アンリエッタ女王陛下は怖いけど。
◇
厳重な警備の元、私は騎士団から発注された医薬品と医療器具を納品しに騎士団に来た。私が騎士団の駐屯地に入るとジルベスタ様と騎士団長と副騎士団長のワルド様が、私を待っていた。緊張する。
「ここから先は魔力のある者以外通行不能」という表示を通り過ぎて一つの部屋に通された。
「エルザ、ここに研究所と駐屯地を繋ぐ転移陣を設置してほしい」とジルベスタ様が言う。
「承知しました」私は転移陣を描いた。
「エルザ、その方は今後研究所から駐屯地まではこの転移陣で来るように。この部屋から外に出る際はこのローブを頭から着るように」
「あのう、真っ黒なローブを頭から被るのですか? ワルド副団長閣下」どう見ても不審者にしか見えないのだけれど……。
「それと駐屯地に来たら、一切話してはいけない」
「えっ、話してはいけないって……」
「ああ、我々以外の者がいる時はだ。会議などに出席してもらうことになるが、その時は絶対言葉を発してはいけない」
「ワルド副団長閣下、私が会議に出席する理由がわかりません」
「君には噂の黒の軍師殿をやってもらう」
「私が黒の軍師ですか? どうして私が……」
「君の身元がはっきりしているのと、絶対にドンゴンバルトの手が伸びていないからだ。この駐屯地の中にもドンゴンバルトの諜報員が入っている。正直に言ってここにいる人間以外誰も信用が出来ないのだ」




