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005 森の魔女、戦場に

「フェルドン先生、上級騎士の方ってお抱え医師団を持っているんですよね!」


「全員、持っているよ。それがどうした?」


「どうして次から次へと銃で撃たれた、上級騎士がうちのテントに運ばれて来るんですか。もうテントに入れません!」


「騎士団長が頼まれて断れずにこうなっている」


「お抱え医師団の専門は内科だからね」


「フェルドン先生、このままケガ人が増えると、私、トリアージを行います」


「トリアージって何をするのかい?」


「青いリボンを腕に巻いた人は後回し、黄色は様子を見ながら必要があれば処置、赤色は今すぐ処置、黒色は処置しません」


「どうして黒色は処置をしないのかね?」


「亡くなっている、または処置をしても助からない」


「黒色のリボンは私が診ることにしよう。亡くなったか、助からないかの判断は私がする。良いね」


「お願いします」



「おいコラ、平民の医者! 公爵様を先にしろ! そいつは子爵だ」


「騎士団長閣下の平民の医者には平民の医者のやり方あるんですよ。嫌ならお抱え医師団のところに戻ってください。寝台が一つ空くと嬉しいです」


「……」


「エルザ」


 うわー、騎士団長だ。コリャ怒られる?


「ご苦労。ウチのやり方でやってくれ。ここは私の医師団のテントである。お前たちの医師団に頼まれて手伝っている。ご覧のようなこの有り様だ。お前たちさえ良ければ、自分たちののテントに戻ってほしい」


「……」


 騎士団長に言われなくても彼らは、戻りたい。主を平民の医者に診せるのは嫌なのだ。ところが自分のところの医師たちが、自分たちでは手に負えないと言うので仕方なく、ここに運んできただけ。


 彼らも馬鹿ではないので、今の状態で主を自分たちのテントに戻すのは主の死を意味するから、しばらくの辛抱だって顔をしていた。


「銃弾を体から摘出します。鎮痛剤はまだ効いてません。両手、両足を固定して、舌を噛まないように」私は薬剤師免許はあるけど、医師免許は持ってないんだけれど。フェルドン先生だけでは、回らない。緊急避難ってことで、不問に付してもらいたい。


「銃弾摘出、点滴」点滴容器の中にはペニシリンを入れている。


「何をしている!」


「意識がないので薬が飲めません。血管に直接薬を入れてます。針が抜けていないかよく見てください。抜けたら私かフェルドン先生を呼んでください」



 馬鹿なの、銃撃されるのに、騎馬で突撃って! それにあの大砲の弾は厄介だ。砲弾が破裂して鉄板が身体に刺さる様にしてある。鉄板全部を取り除くのは時間的に無理だ。


 私もフェルドン先生もいつ食事したのかもわからなくなってきた。ヤバい疲労がピークにきている。誰か交代して!



「盗賊部隊だ! 助かった」って声が聞こえた。


 よくわからないけれど、騎馬での突撃をやめてくれたお陰で新しい患者が運ばれて来ないことはありがたい。休憩が出来る。お腹が空いたよ……。


「フェルドン先生、コーヒーを飲みますか?」


「コーヒーってなに?」


「一時的に疲れていることを忘れる苦い飲み物です。お砂糖とミルクを入れると多少味はましになります」


「ああ、それをもらおう」


「私にもコーヒーをお願いする。砂糖とミルクもお願いする」


「はい?」


 そこには体力回復薬を四本飲んで死にかけたお客様が立っていた。


「ジルベスタ、部隊の指揮は良いのかい」


「叔父上が大変だと聞いて陣中見舞いです」


「手ぶらで陣中見舞いね。相変わらずだね」


 私は二人にコーヒーを淹れてそっとテーブルに置いた。


「確かに苦いが悪くはないね」とフェルドン先生が言う。


「ところで、どうして君がここにいるのだ?」


「ジルベスタ、エルザと知り合いかね?」


「あの体力回復薬と魔力回復薬の作り主ですよ」


「やはりね……」とフェルドン先生が私をじっと見つめている。私の作った薬に何か不具合でもあったのだろうか? 心配になった。


 ジルベスタはコーヒーを飲み干すと「エルザ、叔父上を頼む」と言うと戦場に戻って行った。


「フェルドン先生は貴族だったのですか?」


「元貴族ね。父親に勘当されて、爵位を奪われたから」と言うとフェルドン先生は苦い笑みを浮かべていた。



 想定外の盗賊部隊の出現でドンゴンバルト軍があっさり撤退した。本気の出陣ではなくエルトリア王国軍の実力を計る威力偵察だったようだ。次はエルトリア領を本気で盗りに来ると思う。


 エルトリア王国軍の三分の一は使いものにならなくなったのでは? とくに下級騎士、中級騎士が収容された野戦病院の死亡率は凄いことになっているらしい。それに比べて騎士団長と付き合いの会った騎士は貴族団長のお抱え医師のところに運び込まれて助かっている。ペニシリンを使ったのと包帯を煮沸消毒していたから。現代日本の医学の知識を使ったのだから、そうした知識のない野戦病院と比較は出来ないと思うのだけどね。


 フェルドン先生が、女王陛下から表彰されることになった。ドンゴンバルトからの要求をかわすために国王陛下は退位して一人娘を女王の位につけた。実権は相変わらず国王陛下にはあるのだけれど。


 問題なのはフェルドン先生が父親に勘当されて爵位がないこと。ということで、フェルドン子爵に改めて任ぜられことになった。フェルドン先生は嫌がっていたけれど、爵位なしでは女王陛下に拝謁出来ない。仕方ないことだ。


「エルザ、君も女王陛下に呼ばれている」


「私はアレですから、辞退します。私は医者ではございませんから」医者でないものが医療行為をするのはこの世界でもまずい。しかも私が執刀したのは皆様、偉いさんなので行けるわけがない。


「そうもいかんのだ。エルザが執刀して命を救ってもらい感謝している超大物が、エルザも表彰しろっと女王陛下を脅しているからね。王宮にはエルザも同行する。エルザは今は絶えた貴族の隠し子ということにして、その貴族の家名を継ぐ事に騎士団長が取り計らった」


 それって何ちゃらロンダリングですか!

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