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034 森の魔女、勇者を迎える

「お母さん」と勇者エルムントが私に呼びかけた。やめてほしい。私はまだ十六歳です。実際は十七歳だけど。ああ、中身はアラサーなので問題ないか。


 でも、身長百八十センチメートル、体重八十キログラムのどう見ても二十歳過ぎの男性からお母さんと呼ばれるのはキツいです。


「エルムント君、お母さんではなく、エルザでお願いします。皆さんが変な目で見てるから」


「僕、気にしないですけど」この子は天然に育っている。生まれて半年ほどだから、仕方ないか。皆んな、私の説明を待っているって顔をしている。私は空気を読まない女。無視する。



「サタンの降臨は来月、月蝕の日です。僕のパーティはこのメンバーですか?」


「足らない?」


「エルトリア全体の魔力量が減っているので、どうでしょうか? 父上から僕は魔力の供給を受けるので、大丈夫なのですが、一人でもメンバーで魔力切れを起こすと、サタンは追い返せないです。つまり世界が破滅します」


「このあたりは大気の汚染が激しいですね。これでは精霊が減りすぎていて魔力が補われませんねえ」


 エルトリアもドンゴンバルトを真似て工業化を進めている。森がなくなり、畑が工場になってきているから。


 魔法と言うとまだエルトリアでは笑われないけれど、ドンゴンバルトやエッシェンバルトでは笑われるようになっている。


 ドンゴンバルトやエッシェンバルトでは、魔女の存在自体も完全に否定されているから、魔女は生きやすくなっている。ただ、魔女自身が蓄えられる魔力は少ない。私もドンゴンバルトやエッシェンバルトに行くと魔力回復薬を飲まないと、自然に魔力が回復しなかった。それだけ、精霊が少なくなっているのだろう。



 サタンが降臨する月蝕の日がきた。月が完全に隠れたと同時に光もなくなった。完全な闇が訪れた。


「フェルドン先生、あのう私、あそこに火炎龍が見えるのですけど、あのう、サタンではなくて……」


「あれはどう見てもサタンには見えないね。悪魔はドラゴンを嫌っているはずなんだけど?」


「サタンには姿はありません。純粋なエネルギー体ですから、その目的はこの世界に終末をもたらすこと。今回は火炎龍の力も我がものにして、今度こそこの世界を終わらせる強い意思を感じます。父上も龍関係なのでこちらに来られるそうです」


「ねえ、エルザ、私ね、魔力はあるのだけど、本をね書棚からベッドに持ってくることしか出来ないわけ。どうしたら良いと思う?」


 アンリエッタ様は、ジルベスタの妻として参戦したわけだけど、「私、この後何をしたら良いのかしら」って私に尋ねられても困る。ちゃんと二人で話し合ってもらわないと、本番当日、どうしましょうは困るよ。


「フェルドン先生……」


「ジルベスタ、こっちに来てアンリエッタ様に背中を向けなさい」


「叔父上、それは非礼にあたります」


「時間がないのだから、さっさとしなさい」


 ジルベスタ様は仕方なくアンリエッタにお尻を向けた。


「アンリエッタ様、ジルベスタの背中に手をあててください」


「ええ、良いの皆んなが見ているのに……、ここに手をあてるのね」


「叔父上、非常に恥ずかしいのととてもくすぐったいのですが!」


「我慢しなさい。これでジルベスタは魔力回復薬も体力回復薬も必要ないのだから」


 ええ、私のこれまでの努力は何だったのよ。魔力回復薬を盛大に作ってきたのに。気分が重くなった。



「エルザ、落ち込まなくても良いよ。魔力回復薬は私がすべてもらうから」


「フェルドン先生、相手は火炎龍プラスサタンですよ。フェルドン先生、大丈夫ですか?」


「さあね、勇者パーティ全員が生き残ったって話は聞いたことはないからね。エルザは守りに集中して、エルザが倒れるとおそらくこの戦いは負ける」


 それってフェルドン先生に死亡フラグが立ったのでは。


「皆さん、父上が来るまで頑張ってください。朝には来ると思いますから」


 急げよ、氷河龍、今から十二時間後って、キツいだろう。


「エルザ、私たちを飛ばして」とフェルドン先生の指示で、エルムント、ジルベスタ様、フェルドン先生を火炎龍に向けて飛ばした。


 ジュリアはライフル銃の手入れ中、一発しかない冷凍弾を火炎龍に撃ちこむため。フェルドン先生は、ジュリアに「相手は火炎龍だから逆鱗以外のところに冷凍弾を当てると冷凍弾は弾かれる」と言っていた。


 ジュリアの顔には不安がいっぱいの顔になっている。火炎龍は不規則に動くし、軽く宙に浮いている私たちもブレスを回避するために動くから。


 私の仕事は、私を含めてこの三人を守りきること。通常の火炎龍のブレスなら直撃を三発はくらっても防ぐ自信はあるけれど、プラスサタンってなると、まったく自信がないわけで、火炎龍の動きを予想しながら回避に徹するつもりでいる。でも、ジュリアが狙撃態勢に入ったら動けない。そこにブレスがくると私たちはチリになる。



「エルザ、勇者は火炎龍の背中に乗っているけど、後の二人はかなり離れたところに浮いているだけってどうなの?」


「火炎龍の体がが溶けているというか、体の表面が溶岩になってます。あれでは近寄れないです。それよりも、勇者が火炎龍を剣で殴るたび、火炎龍がブレスを吐いて王都が大変なことになっていますけれど……」



「王都は無人だから、人的被害がなければそれで良いのよ。問題ないわ。でも王城が吹き飛んだわね。復興まで百年は掛かるかな……」


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