029 森の魔女、氷河龍とともにエルマ山に向かう
渋る氷河龍さんを何とか説得して私は氷河龍さんの背中に乗せてもらって高高度を飛んでいる。普通に氷河龍さんが飛ぶと大地がどこまで凍ってしまうから。それでも氷河龍さんが飛んだ地域には雪がわんさか降っていた。ごめんなさい、地域の皆さま。
火炎龍はまだエルマ山にいた。高射砲から、冷却弾を撃ち続けることでなんとか足止めが出来ていた。氷河龍を見つけた、ドンゴンバルトの砲兵たちが手を振っている。
火炎龍も氷河龍を見ると一気に上に飛び上がった。火炎龍の下を氷河龍が飛ぶ大地が一面凍って行く。ドンゴンバルトの軍隊はそれを確認すると即座に撤退を開始する。相変わらずお見事です。
火炎龍の腹に刺激を与えると火を吐くから、刺激するようにと氷河龍から言われたので、私は杖を出して、お腹にビリビリと電気刺激を与えてみたら、ビリビリを感じるたびに火炎龍が上空に向けて火を吐いている。
それから七日火炎龍にビリビリ刺激を与え続けたら、「そろそろ火炎龍のお腹が冷えてきたのでやめるように」と氷河龍さんからやや怒り口調で言われてしまった。疲れからテンションが上がって、火炎龍が火を吐くたび大笑いをしていたらしい。
火炎龍は寝るためにエルマ山の巣穴に入った。当分起きて来ないそうだ。
氷河龍さんも寝床に戻る。ただし、近いうちにこの代償を貰いに私のところに行くのでよろしくと言われた。「氷河龍様、私は英雄王ドンゴンバルト王の代理人でして、これが英雄王の代理人の証の玉です」
「そのような欲望にまみれた汚い玉を早く片付けるように」と言われてしまう。ええとーー、私はドンゴンバルト王の代理人にではなかったのか!
「私はお前の大事なものを貰い受けるとしよう。ではまたな」
それって私の命じゃないかなあ。やってしまったよ。契約の確認をしておくべきだった。後悔してももう遅い。はあ、十六歳でこの世界ともお別れだととは、残念だ。恋も片想いで終わったし……。何か疲れた。
◇
ドンゴンバルトの王宮にドンゴンバルト王の代理人の証の玉を返しに行ったら、「お前にその宝玉は報酬としてやる」と言われて、「俺に仕えろ」って言われたのを断ったらまた捕まった。今度は魔女が三人で私を魔力で縛った。
「お前が魔女だと言う情報が入った。魔女を縛るには魔女の魔力しかないらしいなあ」
「お前たち、家族が斬首されたくなければ、その者を己が命にかえて牢屋に入れよ!」
私は魔法が使えなくなるという牢屋に魔女さん三人と入った。魔力ですが使えますけど、矛盾している。魔力で私を縛っているのに、魔力が使えない牢獄って有り得ない。
「あのう、その程度の魔力では私は縛れないですから。一応縛られた格好だけはしておきますから、休憩してください」
「大魔女様、どうか呪いだけはご勘弁願います」
「ご心配なく、痛くも痒くもなかったので、あれは私には攻撃のうちに入らないですから」って言ったら三人ともしょげていた。
「ご家族がどこに連れて行かれたかは、わからないですよね」
「ご家族が身につけていた布でも系でも髪の毛でも良いので、床に置いてください。それでどこに連れて行かれたかわかりますから」
「息子のハンカチと娘の端切れの布です。うちは息子の髪の毛です。うちは娘の髪の毛です」
「これだけですか? これで良いのですか?」
「はい?」
「わかりました、失せ物探しをしてみます」私は失せ物探しの魔法をかけるとそれぞれが白い煙になって同じ方向を示した。全員、同じところにいるみたいだ。
「それではご家族を見つけに行きましょうか? その前に守りの魔法ですよね。この白い煙の元の人に危害を加える者をカエルに変えましょう! 皆さんも心から願ってくださいね。私も手伝いますから」
牢屋の鉄格子が錆びていたようで軽く魔力で押したら簡単に倒れた。前から騎士たちがやって来たがまったく私たちに気がつかないで通り過ぎた。「大魔女様、凄い」って褒めてくれた。私たちも失せ物になっているから見つからないの。
やっと脱獄がバレたようで、王城内が騒がしくなっている。魔女さんたちの家族が移動している。同じところに移動してくれているので有り難い。
王城の中庭、処刑台に家族全員がのぼらされていた。子どもたちの他にも、男の人が三人いるのだけど、良いのだろうか? 三人には守りの魔法がかかっていないのだけど。
「それ以上近寄ると、この剣で刺し殺すぞと騎士の一人が脅してきたので、私は前に一歩踏み出した。手近にいた女の子を刺そうとしたらその騎士はカエルに変わった。
他の騎士は動揺して逃げてしまった。
子どもたちはそれぞれの母親の元に。残った男の人は不安気な表情で私たちを見ている。
「俺たちが悪かった。離婚するとか言ったのは本心ではなかった。俺たちも助けてください」
三人の魔女の協議の結果は、「自分たちでお逃げなさい」だった。
「良いのですか?」
「はい、離婚は正式に成立していますから」
男の人たちがさらに何か言おうとしたので、魔女三人が一斉に魔法を男たちに掛けた。男たちは直立不動で口は真一文字に閉じられていた。
私たちは直立不動の男の人たち三人を残して空を飛んで逃げ出した。子どもたちはキャッキャと言って喜んでいるものの、母親たちは沈黙している。
森を抜けトロールの棲家に着いた。今回は媚薬入りのお酒はないので強行突入だ。で、中に入ったけれど、トロールたちは狩に出かけていて留守だった。トラブルなくトンネルを飛んで、エルトリア領内に入る。




