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027 森の魔女、火炎の七日間の話をする

 私はもの凄く濃いコーヒーを侍従長のテーブルの前にそっと置いた。これは私、特性徹夜明けに飲むエスプレッソだ。これを飲むと一気に目が覚めるはずだったが、侍従長は一気に眠ってしまった。よほど疲れていたのだろう。


「やはり、フェルドンが淹れるコーヒーよりエルザの淹れるコーヒーの方が美味しいわね」


「ありがとうございます。アンリエッタ様」


「ねえ、エルザなんで、森に引っ込んでいるの?」


「それはですね。私の家は代々魔女の家系でして、魔女ということがバレると引っ込むことになっております。私たち、魔女は社会のご迷惑にならないように生きて行く、今風に言うならわきまえた女でしょうか」と言ってニッコリ笑った。


「森で引っ込んでいる魔女さんは知らないでしょうけど、ドンゴンバルトの国王ランドバルトがエルトリアに親征するのよ」


 あのカタギに見えない国王の名前はランドバルトって言うのか。親征ねえ。何があっても今回は撤退しないよね。終わったなエルトリア王国。


「エルトリアは大変なことになりましたね。国王の面子にかけて戦いを挑んで来るでしょうから」


「ええ、諸国連合軍とドンゴンバルト軍総勢十万ですって、勝ち目がまったくないのよ。どうにかならないかしら、黒の軍師様」


「そうですね。火炎龍がエルマ山から出て来るまで頑張れば、ドンゴンバルトの件は片付くでしょうが、今度は火炎龍がエルトリアを襲いますから、これはどうしようもないかと……」


「ドラゴンは死んだのでしょう?」


「ドラゴンは死にません。生き埋めにしただけでしょう。巣穴の出口を塞いだだけですから、怒りくるったドンゴンが世界各地を飛び回ります。ですので、世界は破滅します」


「どう言うことかしら」


「はい、魔女の口伝ですが、大昔、ドンゴンバルトの国王同様、火炎龍にちょっかいをかけ続けた国王がいたそうです。火炎龍はそれに怒りくるい、その王国だけではなく近隣の国々をも滅ぼしたと伝わっています。私たちはそれを火炎の七日間と呼んでいます」


「ええっと、エルザ、私たちはどうしたら良いの? 世界が燃えてしまうじゃないの」


「これも魔女の口伝で本当なのか嘘なのかわかりませんけど、北の果てに氷河龍というドラゴンがいるそうです。火炎龍は氷河龍が苦手で、氷河龍を見るとしばらく巣穴から出て来ないらしいです」


「侍従長、起きなさい!」


「姫様、どうかしましたか? はてここはどこでしょうか?」


「ジイ、ちゃんと起きなさい」


「女王陛下、御前で私が眠るとはもはや引退すべき時かと思います」


「引退はいつでも出来ます。ジイ、氷河龍って知っていますか?」


「北方の伝説に出てくるドラゴンで、確か大地を凍らせると言われております。ドラゴンですが、人語を解し気に入った英雄に知恵を授けるとも、ドラゴンというより神だという神学者もおります」


「居場所はわかっているの?」


「最北の地にいると言われています。先ほどお話したように、気に入った英雄が近くに来ると呼ぶと言われておりますな。これは北方の国々の神話ですので、実際のところはわかりません。それがどうかしましたか?」


「困ったなあ。黒の軍師様にドラゴンバルトの戦いに参戦してもらおうと思ったけれど、火炎龍がその後来るとしたら、その氷河龍に来てもらわないと、どうしようもないってことね!」


「エルザ、その氷河龍を呼んで来てくれるかしら?」


「……」何と答えて良いものやら。


「そもそもですが、氷河龍は神話の世界のドラゴンでして、その存在がですね。不明なんですけど」


「火炎龍がいるからいるはず、女の勘よ」


「そうですか。でも私は森の魔女でして、英雄ならジルベスタ様ではないかと……」


「残念ながら、武功で考えると一番がエルザ、二番がジルなのね、三番はジュリア」


「ドンゴンバルトの戦いではジルとジュリアは欠かせないし、今隠居している人ってエルザしかいないのよ」


「エルザが魔女だということは、父上から聞いて知っていたし、父上って誘導尋問に引っかかりやすいの」


「氷河龍を探しに行く前にドラゴンバルトの国王に会ってきます。エルマ山から出てきた火炎龍を抑えてもらわないとお話しにならないので」


「あなた死ぬわよ」


「我が家のように先祖代々の魔女を殺すのは、難しいと思います」


「わかったわ、エルザの思う通りにしてちょうだい。私の最期の時が来たらジルと一緒に天国に召されるから」


「召されないように頑張りますので、諦めないでくださいね」


「この戦争を終わらせて、父上にジルとの結婚を認めさせないといけもの。死んでる暇はないの」


 ジルベスタ様が困った顔になっている。


「アンリエッタ様、結婚とか私の場合無理ですから。私の母は酒場の女でした。身分が違い過ぎます」


「じゃあ、私、女王をやめます」


 侍従長が倒れた。


「エルザ、時間がない。よろしく頼みます」とアンリエッタが倒れた侍従長を眺めながら言う。助けてあげてほしい。頭を打ったみたいだし……。


「承知しました。出来るだけのことはしてみます」


 私はドンゴンバルト王へのお土産を用意して、まずはエルマ山に向かった。


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